グーグルを王座に導き、米ヤフーを率いる女性CEOマリッサ・メイヤーとは何者か? 米紙「ビジネスインサイダー」チーフライター、ニコラス・カールソンの最新刊『FAILING FAST マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争』より一部をお目にかける。
(第6章「グーグルとマリッサの進化」より)
一九九九年七月、グーグルは苦しんでいた。入社してからの二カ月、マリッサ・メイヤーと彼女の仲間は、ただ検索エンジンを動かすためだけに週一〇〇時間労働を続けていた。
入社した次の日の午前一一時ごろ、スナックを取りに行こうとキッチンに向かっていたとき、メイヤーはたまたまグーグルの共同創業者にしてCEOのラリー・ペイジに遭遇した。彼は曲がり角に立っていた。
「隠れているんだ」。ペイジは言った。「サイトがダウンしてね、もうめちゃくちゃだよ」
Netscape.com上の検索クエリをグーグルが処理する契約を、ネットスケープ社と結んだばかりだった。グーグルには検索結果を処理するコンピュータが三〇〇台しかない。そのためトラフィックのごく一部だけをグーグルに回すようにネットスケープに頼んでいた。しかし、ネットスケープはこの頼みを無視し、ユーザートラフィックのすべてをグーグルに送ってきた。
結果、google.comがダウンした。
メイヤーは自分のデスクに戻った。昼食も夕食も摂らずに、働き続けた。結局、その日は真夜中の三時過ぎまで仕事を続けた。入社一週目は毎日そんな日が続いた。
彼女はグーグルに恋をした
ひどい会社に来てしまった、とメイヤーは思っただろうか。
いや、そうではなかった。
それどころか、彼女は楽しんでいた。
学校時代はつまらなかった。大学に入って少しはましになったが、それでも物足りなかった。そしてついに、自分が求めていた人々を、探していた場所を見つけた。超がつくほどの天才たちが集まった全寮制の学校、それがグーグルだ。みんなでいっしょに食事をする。いっしょに映画館にも行く。オフィスのなかで寝ることもある。
七月のある日の深夜、メイヤーたちはついに力尽き、コードを打ち込む手を止めた。しかし、誰もうちへ帰らない。仲間のハリーがいまだにウェブクローラー(ウェブ上の文書や画像などを周期的に取得し、自動的にデータベース化するプログラム)のアルゴリズムをいじり続けていたからだ。その仕事は五〇〇のステップからなり、終えるのに三日から五日はかかる。もしハリーが必要なステップを一つでもミスしたら、また一からやり直さなければならない。だから、彼をサポートし、コーヒーを補充し続けた。みんなは彼のことを「スパイダーマン」と呼んだ。
長い夜が続く。メンバー全員がキュービクルのあいだにあるオープンスペースに集まっていた。床に座っている者もいれば、カラフルなバランスボールに腰かけている者もいる。将来、グーグルがどんな会社になっているか語り合った。スタンフォード大学の学生寮で、特に秋、新入生がやってきて新しい友達作りが始まるころに見た光景と同じだ。メイヤーはそう思った。新入生たちが車座に集まって、大学生活にかける期待を、将来の夢を語る。でも今回は見ているだけではない。メイヤーも会話の輪に加わっている。みんな突拍子もない考えを披露する。たとえば、世界にある全図書館のすべての書籍をスキャンして、オンラインで提供するというとてつもないアイデアも出た。それでも、誰もばかにしたり笑ったりしない。どうすれば実現するか、みんな考え始める。
まるで、魔法の瞬間だった。しばらくすると、ジョージス・ハリクという名のエンジニアがバランスボールから立ち上がり、輪の中心に立った。
そして言った。「みんな、話をやめて。これから何が起ころうと、今ほど最高の瞬間はないと思うんだ。だから、今日、ここで過ごした時間のことを忘れないようにしよう」。みんなこの日のことを記憶した。メイヤーにとっては特に印象的な一日だった。
メイヤーはグーグルに恋をした。人、文化、思考。ローラ・ベックマンが一年目にして代表チームに入ったときも、こんな感覚を味わったのだろうかとメイヤーは考えた。彼女から内気さが消えていた。すばらしいチームに囲まれて、力がみなぎってくる。彼らのためにできることならなんでもする。
二四歳のマリッサ・メイヤーは、自分の進む道を見つけた。メイヤーはプログラマーとして、正式にグーグルに就職することになった。そして大きなプロジェクトのメンバーに加わった。検索された語彙に対して適切な広告を表示するためのシステムを構築するのが目標だ。
ところが、思いもよらないことが起こった。