Oculus VRが米ロサンゼルスで、現地時間9月23~25日の間、Oculus Connect 2という開発者向けカンファレンスを開催した。前記事でお伝えしたように、2016年1~3月期に発売予定のバーチャルリアリティー(VR)ゴーグル「Rift」と、2016年4~6月期に発売予定のコントローラーデバイス「Touch」を組み合わせたゲームなどのインタラクションの可能性が多く示された。
Oculus VRはゲームだけでなく、VR映像分野の開拓にも力を入れている。今回のカンファレンス期間中のデモでは、8分ほどのVRを取り入れたCGアニーション短編映画「Henry」が公開された。元ピクサーのスタッフが設立した、VR映像専門の製作スタジオ「Oculus Story Studio」が開発したものだ。
ハリウッドの映画スタジオも積極的に投資を始めている状況と、親会社のFacebookにとってもVRは戦略技術になりつつある実情について紹介する。
舞台を生で見ているような気分になる短編映画Henry
Henryの内容を簡単に紹介すると、友達のいないハリネズミ“Henry”の誕生日の物語だ。Henryは、誕生日を1人で盛り上げようと、自分の家でイチゴのバースデーケーキにロウソクをつける……。だけど、誰も友達がきてくれないという寂しさで泣いてしまう。それを可哀想に思った、部屋にかざられている犬の形をした風船たちが、なんとかHenryの気持ちを盛り上げようと奮闘するのだが、裏目に出てしまい、家中を転がり回る騒ぎになってしまう……という展開だ。
このVR映画にはインタラクティブ性はなく、VR映像をただ見ているだけの内容だ。ただ、カメラの位置は、自分の頭に設定されており、頭を動かすと、細かく作り込まれたHenryの部屋を見ることができる。基本的には、座って見ることが想定されており、CGアニメーション映画を舞台作品として見ているような気分だ。
Henryの喜怒哀楽を示す表情は可愛らしく、演出の見事さもあって、短い時間でも十分に感情移入ができる。上へ下へと、Henryと風船は追いかけっこをするなど、VR空間だからこそできる演出も工夫されている。最後にはほろりとさせるハッピーエンドも待っていて、まったく飽きさせない内容だった。子供が見れば、相当な人気を得られるだろう。
このVRのCGアニメーション映画が、既存の360度映像と大きく違うのは、すべての映像が先に生成されているプリレンダリングの映像ではなく、ゲームエンジンの「Unreal Engine 4」を利用した、リアルタイムで生成されている映像である点だ。
リアルタイムで生成するメリットは、映像を見ている間に、頭を動かしたりすることで、自由に映像の中を探索できる点にある。Henryに近づいて表情をより細かく見つめることもできるし、途中でバースデーケーキが潰れてダメになるシーンがあるのだが、ケーキの破片を飛ばせて、ユーザーをあわてさせるといったこともできる。
VRで見えている映像があまりに自然であるために、通常の2D映画を見ているときよりも「没入感」が強く、目の前に実際にHenryの実物がいるという「実在感」も強い。
Henryを開発したのは、Oculus VRが昨年設立したVR用CGアニメーションスタジオのOculus Story Studioだ。このスタジオをまとめるクリエイティブディレクターのSaschka Unseld氏は、ピクサーで「トイ・ストーリー3」などの映像製作に関わったベテランで、VRの可能性にかけて、新しいスタジオをスタートさせた。ほかの参加スタッフの多くも、ハリウッドで有名なCG映画に携わった経験を持っている。
いくらでも映像を作り込むことができる既存のプリレンダリングの映像と違い、リアルタイムで映像を作る苦労は多いようだ。Riftで快適に映像が見ることができる秒間90フレームの画面の書き換えを維持するために、さまざまな形で無駄に計算パワーを使わないよう、データの軽量化を図ったようだ。
既存の映像製作で使われるストーリーボードでは、VRの映像を作る際には有効ではないなど、初めて作られるものだからこその苦労もあったようだ。
快適に見ることができるVR映像はまだ模索段階で、ユーザーが意図しない形でカメラを動かすと、VR酔いが起きてしまうことが知られている。そのため、ユーザーの頭の位置に固定して、映像を見せる形をとっているのだろう。ダイナミックなカメラワークの変化はないが、どうすれば迫力ある映像をさらに作れるのかは、今後模索されていくことになるのだろう。
(次ページでは、「ルーカスフィルムがVR専門スタジオ設立」)