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花澤香菜×AK100IIコラボ、限定曲の収録現場に立ち会う

2015年07月05日 12時00分更新

文● 鳥居一豊、写真●神田喜和

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ハイレゾ時代の録音、考え方に違いはあるのか

 ここからはインタビュー形式で、筆者が気になったポイントを杉山氏に聞いていく。ハイレゾ音源の録音とCDの録音で違いがあるのか。どんな意図で制作を進めているのかなどについて聞いていこう。

── CDとハイレゾで機材選定やマイクセッティングに違いはありますか?

杉山 「期待されている答えと違うのでしょうが、実はハイレゾ録音だからといって特に違うところはありません。CDは20kHz以上の音はカットされますし、ダイナミックレンジにも差があります。でも、僕らはそんなCDでもスタジオで聴こえているすべての音を入れたいと思って録音をしてきましたから、ハイレゾ録音になったからといって特に変わることはないのです。

 機材の選定も、20kHzまでのCD録音だからとか、100kHz近くまで入るハイレゾだからとか、そういうことに合致する特性で選んだわけではありません。すべての音を記録したいというスタンスで機材を選んでいたら、結果的にハイレゾ録音の要求する特性も満たしていたという感じです」

── ハイレゾという新しいフォーマットについての考え方や難しさについて教えてください。

杉山 「CDでもアナログレコードでも、周波数特性やダイナミックレンジには制約がありました。しかしフォーマットとしてはそれぞれに規格があったのです。つまりデリバリーされた後に再生される状態を想像しやすかったと言えます。けれども、ハイレゾには数多くのフォーマットが存在するため、どんな状態で再生できるかをこちらでは把握しきれないのです」

── スタジオで再生しているそのままの音をハイレゾで楽しむ。そのためには再生環境も重要だと思います。スタジオの音と実際にリスナーが聴く音。その違いを感じることはありますか?

杉山 「我々が使うのと同じPro Toolsを使って、さらに業務用のオーディオインターフェースを使って聴いてください。それがスタジオの音です。と、言いたくなる時期もありました。ただし、ハイレゾの注目度も高まってきて、再生機器の品質や良い音で聴くためのノウハウもかなり普及してきましたから、我々にとっても仕事がしやすい環境になってきたのは確かです。

 特に、今回はAstell & Kernとのコラボレーションで、『Astell & Kern AK100II 花澤香菜エディション』にプリインストールされる楽曲ですから、どんな機器で再生されるかもわかります。AK100IIだけでなく、Astell & Kernの機器でしたら音質も優れているので、安心です」

── レコーディングエンジニアの立場から、AK100IIの音質的な特徴はどこにあると思いますか?

杉山 「意図した音、こちらが狙った通りの音がすることです。僕らの仕事は、どんな機器で聴かれても、こちらが意図した通りの音で鳴るように録音することが仕事です。しかし、いまでは多くの環境があり、限界があるのも事実です。AK100IIやAstell & Kernの製品ならば『これは違う』と感じることがありません。まさしく、今日この場で鳴っていた音が、きちんと再生できると思います」

── お話を聞いて、その場にある音をありのままに録り、再生機器に左右されずに再現することが、レコーディングエンジニアの仕事だと感じました。マイクアレンジなどを含め、仕事のほとんどがそのために費やされるのではないでしょうか?

杉山 「その通りです。機材の選定からマイクのアレンジを含めて、“そのままの音”がしていると思わせることが仕事です。これがなかなか難しいわけですが。例えば、マイクセッティングなどはある意味“カン”で行っていると思われがちですが、それではプロとして仕事を続けていけません。ちゃんと“そのままの音”がする位置を自分の耳で探してマイクを立てるのです。僕は“音の焦点が合う”と表現していますが、責任を持って毎回違った音源やスタジオになっても再現出来る方法を確立しています。何も手を加えない事が“そのまま”ではないのです」

── カメラのピントが合うようにぴったりとスピーカーのセッティングが決まると、不思議なことに部屋のどこにいてもステレオイメージが得られる音になります。これに近い感覚があるのかもしれませんね。

杉山 「ハイレゾでの録音では、細かな音の調整がより判断しやすくなります。エンジニアにとっては、これが一番の利点です。また演奏者にとっても、モニターする音が変わるので、演奏の出来に直結しているとも言えます」

 エンジニアが意図するのは、現場そのままと感じられる音を届けること。これはある意味当然とも言える言葉だが、その仕事をじっくりと見た後では、それが極めて重要な意味を含んでいると感じられた。

 AK100II 花澤香菜エディションで聴けばもちろんだが、Astell & Kernやその他の質の高いハイレゾ対応機器でじっくりと聴くと、レコーディングの現場でエンジニアが意図した音の魅力がよくわかるだろう。今日聴いた伴奏に、花澤香菜さんの声が重なり、楽曲として完成した状態で聴ける日がとても楽しみだ。

Astell & Kern AK100II 花澤香菜エディション

花澤香菜さん

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