新生SAPの幕開けを告げる「SAPPHIRE NOW 2015」 第3回
IoTとビジネスネットワークがつながる新しい業務システム
SAP馬場氏に聞くIoT時代の基幹システム「S/4 HANA」の真価
2015年06月02日 09時00分更新
SAPの静かな改革が熟しつつある。2月には23年ぶりの刷新として次世代ERPの「S/4 HANA」を発表、5月の年次イベント「SAPPHIRE NOW 2015」ではHANAの高速な処理能力を活用するS/4 HANAを中核に、IoTとビジネスネットワークでつながった新しい業務システムの図を描いて見せた。これを日本でどのように展開していくのか。「S/4時代の幕開け」と述べるSAPジャパンでバイスプレジデント チーフイノベーションオフィサーを務める馬場渉氏に聞いた。(以下、敬称略)
IoTは基幹システムに結びつかなければならない
――今年の「SAPPHIRE NOW」のメッセージは?
馬場 S/4 HANAが発表された後の初めてのSAPPHIREとなった。S/4 HANAは20数年ぶりの刷新となり今後成熟度をあげていく。
S/4 HANAには、R3の進化版でありHANA向けに最適化されたERPという以外にもう1つの流れがある――IoTだ。IoTは現在、ビックデータ、センサーなどの延長のように語られているが、”洗濯機がスマートになる”とかコンシューマー中心であり、ビジネスのメリットが語られていないようだ。
CEOのビル・マクダモットが述べているように、BtoCとかBtoBtoCではなく、コンシューマーを中心にしたビジネスを考えなければならない。その時にERPまで結びついていることは重要だ。S/4はこのようにIoT時代の基幹システムという役割を持つ。
言い換えるなら、どのベンダーもIoTというが”SAPのIoTソリューションは?”と聞かれると、「多くを占めるのはS/4 HANA」ということになる。S/4 HANAはERPだが、リアルタイムの仕組みがIoTでも中核となる。(IoT戦略の)残りを占めるのがPaaSの「HANA Cloud Platform(HCP)」だ。S/4 HANAをコアとして拡張や統合の基盤となる。SAPPHIREでは、HCPにネイティブでIoT特有の機能を加えた「HCP for IoT」をアナウンスした。
――そのS/4 HANAだが、データベースはHANAしかサポートしていない。これに対する顧客の反応は?
馬場 SAPの顧客はある程度予期できていたのではないか。これまでMicrosoftやOracleを使って安定して動いているという顧客にはリスクとなり得たと思うが、驚きよりも、”ついにきたか”という反応が多いように感じている。新規の顧客は最初からそういうものだと思っていただけるのではないか。
かといって強制するというのではない。S/4 HANAについてはHANA版しかないが、2025年まで(既存の「Business Suite 7」のサポートを)延期するという発表は非常に歓迎された。いまのERPで困っていないというのであれば、データベースも合わせてそのまま使っていただける。それまでに移行プランを立てればよい。明確に期限を設けたことにより”じゃあ10年かけてきちんと行こう計画を立てよう”と、肯定的にとらえていただいていると感じている。
スクラッチ市場の日本でのHCP戦略とは?
――S/4 HANAのロードマップはきちんと伝わっているのか?
馬場 確かに最初Simple Financeがあり、次に会計が出て……と個別に出していくとアナウンスをしたことがあった。今回25業界・9業務を出すと発表した。この辺りは日本の顧客向けにフォローしていく。
――HCPではエコシステムが重要になる。ハッソ・プラトナー(Hasso Platner 共同創業者で現在スーパーバイザリーボード会長を務める)氏は、「“2000年はじめのNetWeaverの失敗を繰り返すな”と新任のCTO(マイクロソフトから移籍したクエンティン・クラーク氏)に伝えている」と述べていた。日本でのエコシステムの取り組みはどうすすめていくのか?
馬場 日本と中国は世界の他の国と大きく違う点がある。巨大なカスタム市場があるという点だ。NetWeaverの時は、どのようにしてSAP以外の市場にプロモーションするのかが課題だった。だが今回、日本では早くからHANAを非SAP環境として位置付けることができた。好例は、最初のHANA事例となったNRI(野村総研)も渋滞情報であり、ERPや財務ではなかった。
日本はスクラッチ市場が大きく、これまでも対策をしてきた。今後は人材も含めてスクラッチ市場を強化していく。CTOのクラーク氏をマイクロソフトから起用したように、日本でもスクラッチ分野で名の知られた人を採用している。
2014年の夏頃、「Japan 2.0」として社内で成長戦略や投資分野を話し合った。Japan 2.0は5つの柱を持つが、その1つとして、HANAプラットフォームをカスタム開発市場の人たちに魅力的に感じてもらうような働きかけを行っていこうと”Platform 2.0”を敷いている。ターゲットは3つ。1つはISVでパッケージ開発のランタイムにHANAを利用してもらおうというもの。2つ目はカスタム開発、3つめはスタートアップだ。
日本でもチェンジリーダーに会おうと言っている
――SAPPHIREでは顧客に対し、S/4 HANAの高速さやシンプルさを生かす”新しいビジネスモデルを考えよう”という呼びかけが目立った。日本の顧客はSAPのスピードについて行っているのか?
馬場 当たり前のことを当たり前にやろうというのがR/3だったとすれば、S/4 HANAやIoTはその需要の枠を超えるものだ。それを超えた事業展開をとなると、ボトルネックになるのはイノベーションや起業家マインドをもっていただけるか。リスクをとっていただけるか。SAPジャパンとしても、顧客企業の中でそういう人を探そうという機運が高まっている。
欧米などはCIOが入れ替わり、これまでにやってこなかったことをやって評価される仕組みがある。日本はそうではなく、CIOやITトップは問題が起きなければよいという考え方がほとんど。とはいっても、われわれがみたところ革新的な方はいらっしゃる。だが、必ずしもIT部門にいないかもしれない。だからそのような“チェンジリーダー”を探そう、変革者に会おうと言っている。
だが、全員が変革者ではない。そこではデザインシンキングを利用して、変革者を育成する。
――クラウドが普及してきた。クラウドのトレンドによりSAPの顧客は変わってきた? たとえば中小規模企業が増えたとか?
馬場 SMBは(SAPの本社がある)ドイツも日本も大きい。だが、実際のところクラウドは大企業が利用している。支所や部門単位が本社の遅い意思決定を待てずに迅速に導入したいというニーズがあるからだ。たとえば人事・タレント管理のSuccessFactorsも250万人を擁するウォールマートが利用している。
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