年間4億のPOSデータをクラウド上で分析し始めたすかいらーく。その立役者とも言える神谷勇樹氏が進めてきた「売るためのIT」は果たしてどのような効果をもたらしたのか? そして次のチャレンジとは? 1月21日に開催するITACHIBAのイベントに先だって話を聞いてきた。(インタビュアー TECH.ASCII.jp大谷イビサ)
ケータイクーポン6年分を1ヶ月で抜いたモバイルアプリ
ファミリーレストラン3000店舗を展開するすかいらーくグループのビッグデータ分析は、マーケティングの費用対効果の改善が目的。すかいらーくへの入社も間もない神谷氏だったが、Amazon Web ServicesのAmazon Redshiftを用いてシステムを約1ヶ月で構築。現在はBIツールのTablauを使って、クーポンやCM、チラシなどマーケティング施策の効果測定を行なっている。
このユーザー事例には、次のIT活用を見据えたさまざまな要素が数多く含まれている。まずは従来のITシステムの担い手であった情報システム部ではなく、マーケティング部が主導でIT活用を進めたこと。神谷氏自体がAWSやTableauに触れて、確信を得たことで、サービスの選定や構築がスピーディに進んだと言える。また、対立構造に陥りがちな情報システム部とがっちりタッグを組んでいるのもキーポイント。基幹システムのデータベースを効率的に抽出し、分析の遡上に載せるべく、情報システム部がマーケティング部をサポートしているのが印象的だ。
なによりクラウドの価値に異議をはさまず、企業の競争力を向上させるためのITの方に早々にフォーカスしたのが大きい。企業の競争力をスピーディに向上させるためには、クラウドの是非で足踏みすべきではないという意見。ここらへんは「クラウドに早くいてまえ」という東急ハンズの長谷川秀樹氏と同じ論に帰結する。
売れるためのITは走り続けて作るモノ
プロジェクトを進めてきた神谷氏は、「去年はまさに売れるためのITをやってきたが、結果としてかなりいいものができた。売上を上げつつ、広告費を下げることができた。大幅な費用対効果の改善が図れている」と走り続けた2014年を振り返る。また、下期にはオンライン施策にも本腰を入れ、モバイルアプリの「ガストアプリ」をラウンチしたが、こちらも想定以上の効果が得られた。「2008年に立ちあげたケータイクーポンの効果を1ヶ月で抜いた。オンラインの施策はきちんとやれば、きちんと効果が出るものだとわかった」と語る。
とはいえ障壁もあった。まずは規模が規模なので、経験や実績がない。数千万ユーザーを想定したクラウドアプリケーションを開発した経験を持つSIerは決して多くない。しかも、外部の業者ともクラウドへの姿勢やコスト感覚がベンダーと異なり、かなり苦労したという。「外部の業者といっしょに作りましたが、かなりコミットしてアーキテクチャレベルで設計しました」(神谷氏)。そのため、神谷氏自身も情報収集や勉強を行なったという。スパイクの立ったサービスを立ち上げるために、汗を流すことが重要だったようだ。
もう1つは試行錯誤だ。すかいらーくの事例はサービス構築まで1ヶ月という期間で実現しているが、やはり1ヶ月で作ったモノではあるという。「最初からいいものなんてできるわけない。いいものを作るためには、経験値を溜める必要がありました。経験値を貯めるには、とにかく早く始めなければなりませんでした」と神谷氏は語る。しかし、完成品をリリースしたわけではないので、日々いろんなトラブルが出てくるし、ベンダーも壁にぶつかる。「試行錯誤の中で、当然妥協もありましたし、スケジュールの遅れもありました」(神谷氏)とのことで、ユーザーの目線で取捨選択を行ない、走りながらいいものに仕上げていったという。
1月21日に開催される「コスト削減のITはもう古い! 勝つためのITをみんなで考える」(ITACHIBAコンソーシアム主催)では、こうした神谷氏の試行錯誤や2015年のチャレンジが披露される。イベントの模様はASCII.jpでもレポートするので、楽しみにしてもらいたい。