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Google会長がルネサンスと称えるベルリンスタートアップ

2014年07月27日 07時00分更新

佐藤ゆき(bistream)

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シリコンバレーのテック関係者も注目するベルリンのスタートアップシーン、ここ数年の盛り上がりの理由とは?

 スタートアップシーンが熱い海外の都市はどこかと問われたら、おそらく多くの人がまず最初に思い浮かべるのは米シリコンバレーだろう。それは確かに間違っていないが、世界の都市を見渡したときにスタートアップシーンが盛り上がっているのは、シリコンバレーだけではないのも事実だ。

 筆者が在住するドイツの首都ベルリンは、近年スタートアップシーンの盛り上がりが加速しており、スタートアップ関連のイベントや小規模ミートアップが日々開催されている。「ベルリン州経済技術研究省(当時)」が発表した数字によれば、2012年、テック系スタートアップ関連の仕事に就く人材は約6万2400名に上り、約1億3300万ユーロ(約182億6090万円)がベルリンのスタートアップに投資された。また2013年にベンチャーキャピタル(VC)がドイツ全体のスタートアップに投資した額は約6億7300万ユーロ(約924億290万円)で、もっとも投資が集まる都市はベルリンだという。

 3、4年前、スタートアップ関連のイベントはせいぜい月に2、3件だったので、その成長を想像できるだろう。今回はそんなベルリンのスタートアップシーンの盛況を牽引している背景について紹介したい。

■スタートアップ界の公用語は英語、インターナショナルな都市ベルリン

ベルリンスタートアップ
ベルリンでは連日スタートアップ関連のイベントが開催されているが、公用語は英語だ(Tech Open Air Berlinにて筆者撮影)

 ベルリンのスタートアップシーンは非常にインターナショナルだ。かつて「VentureBeat」でライターを務め、現在はベルリンにてスマートフォンのアプリ検索アプリを開発するスタートアップ「Xyo」のファウンダーを務める、マテウス・クジスコフスキー氏の話によれば、ベルリンのスタートアップのうち、200〜250のスタートアップのファウンダーに外国人が入っているという。(ちなみに、ベルリン州経済技術研究省によれば、スタートアップの全体数は2012年時点で約500とのことだが、その後さらに増加しているのは間違いない)

 当然、スタートアップ関連のイベントやミートアップ、またオフィス内の公用語も英語が多い。英語が通用するという点は、ドイツ国外に住む者にとって大きな魅力といって間違いないだろう。それはまた、海外の投資家や業界関係者にとっても同じだ。

■「ベルリンはお金の無い者でも楽しめるインフラが整っている」

 なぜ、外国人起業家がベルリンに集まるのか。大きな理由の一つは生活コストの低さだ。ベルリンは、欧州でもっとも物価の安い都市の一つだ。コーヒーは2ユーロ以下、ベルリンを代表するストリートフードであるドネルケバブも3ユーロ程度で食べられる。部屋も400ユーロ程度で見つけることが可能。ロンドンやパリと比較すると、生活コストの差は顕著だ。

 ある友人が「ベルリンはお金の無い者でも楽しめるインフラが整っている」といったが、それこそまさにベルリンの魅力。こうした経済的プレッシャーの小さな環境は、新しいことにチャレンジしたい起業家やフリーランサー、クリエーティブな人々を惹き付ける。

■海外からの人材の流入

 同時に、2009年秋のギリシャの財政破綻から始まった欧州経済危機は、イタリアやスペインといった欧州の近隣諸国からベルリンへの人材流入に拍車をかけた。自国の経済状況に希望を失った結果、就職や起業の機会を求めてベルリンに移住した若者たちは多い。

 さらに、優秀なデベロッパーが多いことで有名なポーランドをはじめ、東欧諸国からの人材流入も盛ん。シリコンバレーと比較すると、コストを大きく抑えて、優秀なIT系人材を調達できるのだ。

■Soundcloudなど、リーダー的なスタートアップの存在

ベルリンスタートアップ
今年3月に開催されたイベント hy! にて。ResearchGateのファウンダーIjad Madisch氏が登壇(筆者撮影)

 スタートアップのエコシステムの成長が加速するきっかけとして、スウェーデンの「SoundCloud」がベルリンに拠点を構えたことは大きい。音のYouTubeとも称されるSoundCloudは、自国のストックホルムではなく、ベルリンを拠点に選んだ。その理由は、音楽系サービスを開発するにあたって、多くのライブが開催され、クラブシーンが熱い点が魅力だったこと、またやはり生活コストの安さに惹き付けられたことが理由だと、あるインタビューで語っている。(※1)

 SoundCloudは、2009年のシリーズAラウンドの調達から、2012年にはシリーズCラウンドを完了しており、順調に資金調達を重ねてスケールしていった。同時に多くの人材を惹き付ける一方、人材を輩出。SoundCloud以外にも、ビル・ゲイツが投資したことが話題となった研究者向けSNSを開発する「ResearchGate」や、タスクマネジメントアプリ「Wunderlist」を開発する「6Wunderkinder」、写真共有アプリを開発する「EyeEm」といったスタートアップも、ベルリンのスタートアップシーンを牽引する存在だ。

■米巨大テック企業やファンドもベルリンに注目

 こうした存在感のあるスタートアップが、起業家やデベロッパー、デザイナー、そして投資家を集め、ベルリンのエコシステムは発展してきている。

 そして、その存在は欧州内だけでなく、海を越えて米国からも注目されいる。前述のクジスコフスキー氏によれば、ベルリンのスタートアップに投資をする米国のファンドは2009年時点では2つだけだったものの、今では30にも上るという。米国VCのベルリンに対する注目は、特にここ1年で加速しているそうだ。

 たとえば、欧州内の交通手段検索サービスを開発するベルリンのスタートアップ「GoEuro」は昨年3月に400万ドル(5億4920万円)のシード資金を調達したが、ドイツのVCである「Hasso Plattner Ventures」だけでなく、サンフランシスコのVC「Battery Ventures」も出資をしたことで話題を集めた。

 投資家だけでなく、シリコンバレー、サンフランシスコの巨大テック企業も人材を求めにベルリンを訪問している。国内外の投資家や大企業の担当者とスタートアップの人材をつなぐイベントも数多く開催されているし、行政もイベントをサポートする。

■エリック・シュミット氏「ベルリンは、新たなルネサンスが生まれるのに最高の場所だ」

ベルリンスタートアップ
先月ベルリンの中心地にオープンしたスタートアップキャンパス「Factory」(筆者撮影)

 つい1ヵ月前には、Googleが出資したスタートアップキャンパス「Factory」がベルリンの中心ミッテ地区にオープン。SoundCloudや6Wunderkinderなどのスタートアップが入居し、オープンなスペースを活用して、スタートアップ関係者同士の交流が促進される。

 Factoryのオープニングイベントに現われたグーグルのエリック・シュミット会長は、分断の歴史を乗り越えて街が変容してきたベルリンのユニークな歴史と特性に触れながら「ベルリンという場所は、新たなルネサンスが生まれるのに最高の場所だ」とコメントした。

 歴史の波に翻弄されながら、激動の歴史を乗り越えてきたベルリンは、今テクノロジーという世界的潮流の波を受けながら、国内外の人を惹き付け、日々生まれ変わっている。

(※1 Twingly Blog

bistream

 日本のテクノロジー企業、投資家、スタートアップ支援ネットワークとベルリンのスタートアップ・エコシステムを繋げ、両都市間のコラボレーション、イノベーションを促進することをミッションに掲げる、東京・ベルリン間のビジネスエクスチェンジ・プラットフォーム。


佐藤ゆき

 ベルリンを拠点に活動するフリーランスのライター・翻訳者。2012年よりベルリン在住。ベルリンのスタートアップシーンやテック関連のテーマを中心に、複数のメディアで執筆中。

■関連サイト
bistream

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