NECは今年1月、子会社であるISP事業者NECビッグローブの全株式を、プライベート・エクイティ・ファンドの日本産業パートナーズに譲渡すると発表した。NECは売却益を約270億円と見込んでいる。要は約270億円で売ったのだ。
2月には、ソニーがVAIO事業を同じく日本産業パートナーズに譲渡すると発表した。別件の取材中も、古くからIT業界にいた人々から「なんとも言えずさみしいですね」という声が聞こえてきた。
NECビッグローブ ネットサービス事業部グループマネージャーの海老原三樹氏によれば、VAIOに初めて入ったISPはソネットではなくビッグローブだったそうだ。営業をしたのが他ならぬ海老原氏だった。
VAIO発表当時「ソニー、パソコンに参入」の記事を見て、すぐ営業に駆けつけた。担当者から「NECじゃなくていいのか」と驚かれたが、全然構わないと答えたそうだ。「なにせソニーのパソコンだ、絶対売れるから」。
海老原氏がNECに入社したのは1989年。コンピューターと通信の黎明期を知る存在だ。そもそもビッグローブは、NECが運営していたパソコン通信サービスの「PC-VAN」、ISPの「mesh」、そしてコンテンツ配信サービス「CyberPlaza」を統合して、1996年に運営を開始したもの。
テキストと、小さなファイルしかやり取りできなかったパソコン通信時代に比べ、動画や音楽、アプリの定額配信が普通になっている今は、コンピューターと通信に求められる質と量が様変わりしたと海老原氏は言う。
VAIO売却に象徴されるように、個人用パソコンは事業再生のフェーズに入っている。パソコンと寄り添っていたISPも窮地なのだろう──と思いきや「固定回線はまだ伸びている」と海老原氏は言うのである。
どっこい生きてる。ピョン吉である。
聞けば、固定回線を引っ張っているのはタブレットだという。地方のお年寄りにタブレットが普及しはじめている。タブレットにはWi-Fi専用モデルがある。「ほらね、銀行のATMみたいで簡単でしょ?」と量販店で説明され、高齢者がタブレットと固定回線のセットを契約している風景が思い浮かぶ。
とはいえ、それは高齢者の話。ビッグローブを引っ張る成長エンジンは、別にあると海老原氏は言う。
「ISPが生きる道はスマホの後にも残されている」。スペインで開催されたイベント「Mobile World Congress」に行った海老原氏は、そう確信したそうだ。
詳しくは「アスキークラウド 5月号」(3月24日発売)でリポートしている。
また3月25日18時30分から配信する「アスキークラウドニコニコシンポジウム」では、海老原氏に4月から新体制で運営を開始するビッグローブの内情や、事業の行く末をお話いただく。視聴は無料。パソコン通信からツイッターまで、インターネットを愛するすべての人にご覧いただきたい。