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データで見る IBMがアマゾンAWS追撃にこだわる理由

2013年12月31日 07時00分更新

文● 福田 悦朋(Fukuda Yoshitomo)/アスキークラウド

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パブリッククラウドは儲からない?

 実際、アマゾンにしてもAWSから大きな利益を得ているかどうかは不明だ。
 例えば、売上の成長率こそ、IBMはアマゾンの後塵を拝しているが、利益で見れば、IBMが2012年通期で166億ドル(前年比5%増)の純利益を上げているのに対し、アマゾンは3900万ドルの純損益。2013年第3四半期においても、IBMは40億ドル(前年同期比6%増)の純利益を計上しているが、アマゾンは4100万ドルの赤字だ。赤字の原因が先行投資にあり、AWSだけのせいではないにせよ、AWSから得られる利益が投資を吸収できるレベルに至っていないのは間違いないだろう。そう考えれば、AWSを追う立場にあるSoftLayerがすぐさま大きな利益をIBMにもたらすとは考えにくい。したがって、この事業と、一定の利益を確保している既存事業との競合/矛盾をどう解消するか、あるいは、それをどうとらえるべきかの共通認識も内外でしっかりと確立しておく必要があるかもしれない。

IBMとAmazonの収益推移(純利益)

IBMとAmazonの純利益推移を比較

 とはいえ、企業ITのクラウド化が進む中で、今後の成長が明白なパブリッククラウドの市場を取りに行くのは、当然と言えば当然の戦略だ。もちろん、SoftLayerあるいはIBMのクラウドが、いきなりAWSの地位を奪取することはないだろう。だが、将来的にもそれが不可能かと言えば、そうとばかりは言い切れない。ビジネスの優勝劣敗はそう簡単に決するものではなく、また、業界の主役も目まぐるしく変化するのが常だからだ。
 実際、IBMは1990年代前半、“ダウンサイジング”あるいは“オープン化”と呼ばれる潮流に苦しめられ、巨額の赤字を計上した。そのころ、IBMのメインフレームは“滅び行く恐竜”と揶揄され、その恐竜とともにIBMも滅ぶと見られていた。だが、メインフレーム偏重のビジネスモデルからソフトウエアとサービス中心のビジネスモデルへの転換を図ったことでIBMは苦境から脱し、逆にダウンサイジングの旗手とされたシステムベンダーのほうが他社に吸収される顛末となった。
 クラウドコンピューティングの激流と対峙する今のIBMの状況は、ダウンサイジングやオープン化と対峙していたころの状況と似てなくもない。ただし、巨額の赤字を出したかつてとは異なり、今日のIBMには戦うための武器をそろえながら、攻勢に出る機を伺うだけの余裕はあるだろう。
 敵対する相手が、ITビジネスを「副業」として展開する企業であり、「儲け度外視の戦略」を展開してくる可能性があることは、IBMとっては厄介なことかもしれない。しかし、競合する相手がどうあれ、ITのクラウド化とコモディティ化、高性能化が行き着く先は同じだ。それを見据えながら、IBMがこれから、いかなる変容を見せるかは興味深い。

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