このページの本文へ

既存農業のモダナイゼーションからイノベーションへ

クラウドで農業は変わるか?富士通「Akisai農場」の挑戦

2013年08月06日 07時30分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 Akisaiの発表から1年が経ったが、440社を超えるユーザーの問い合わせと引き合いがあり、トライアルが30件、本格利用も83件(参加団体/生産者あわせ約1500団体)にのぼっているとのこと。実際の導入事例としては、前述した4定を実現するために直営農業から運用を開始したイオンアグリ創造、施設園芸の遠隔栽培指導を進める九州の花き農園などが挙げられた。阪井氏は、「『はじめて原価がわかった』『作業プロセスを標準化できた』というお声をいただいている」といったユーザーの声も紹介した。

施設園芸の遠隔栽培指導を進める九州の花き農園の事例

 また、富士通の社内実践として、低カリウムレタス栽培プロジェクトでもAkisaiが導入される予定だ。低カリウムレタスはカリウムの摂取制限がある透析患者や腎臓病患者も安心して食べられるよう、カリウム量を大幅に減らした機能性野菜。「患者の数は世界で6億人にものぼるという。こうした方にも美味しくレタスを食べていただこうという取り組み」(阪井氏)。プロジェクトでは、グループ会社であるFSJ会津若松の遊休クリーンルームを活用した完全閉鎖型の植物工場で、この低カリウムレタスを量産することになっており、Akisai適用のリファレンスモデルにしていく計画となっている。

 阪井氏は、「多くのお客様はやはり単位あたりの収益を上げることや、より高い品質を望んでいる。たとえば糖度の高い果物を作れば、高く売れるし、加工品を作れば在庫ができる。(Akisaiを使えば)こうした取り組みに貢献していける」とユーザーのニーズについて語る。

農業先進国オランダに追いつけ、追い越せ!

 今回、Akisai農場で披露されたのは施設園芸、いわゆるハウス栽培での取り組みだ。富士通ソーシャルクラウドビジネス統括部 シニアマネージャーの渡邊勝吉氏が、こうした施設園芸におけるICT活用の先進モデルとして挙げたのが、世界第2位の農業輸出国になっているオランダの取り組みだ。

富士通ソーシャルクラウドビジネス統括部 シニアマネージャー 渡邊勝吉氏

 オランダでは、施設園芸での統合環境制御がほぼ完成しており、どの農業に行っても同じ管理が行なわれているという。「日本では2%程度だが、オランダでは95%がコンピューターによる統合環境制御」(渡邊氏)だ。10ha以上の巨大なガラス温室も多数あり、規模の拡大と生産の合理化が追求されているとのこと。食品産業の競争力強化と地域の活性化を目的とした「食品産業クラスター」が各州に1つ程度存在するほか、政府が税制優遇措置やインフラ整備などを積極的に行なっている。

オランダの先進的な施設園芸

 もう1つの特徴的な点が、ハウスがエネルギーの供給元(House as Energy Source)として捉えられていること。「売電するために発電装置を導入し、そのエネルギーと熱、CO2で作物を栽培するのが一般的」(渡邊氏)とのことで、オランダ国内の10%の電力はハウスで発電されている状況。売電収益が作物の利益を上回ることもあるという。

 しかし、こうしたオランダ製の環境制御システムにも課題があるという。「1980年代初頭に設計されたシステムを改良して使っているので設計思想が古い。1つの制御コンピューターですべてを処理しているのと、ソフトウェアがブラックボックスで外部から見られない」(渡邊氏)といった問題だ。また、導入コストも高く、コンサルティングや保守のコストもかかるとのことだ。

オランダ製環境制御システムの課題

オランダを超える施設園芸への取り組み

 こうした課題を解決すべく、富士通が選択したのが自律分散型システムを採用したクラウド型の環境制御システムだ。また、センシングやネットワークなどを活用することでビッグデータの蓄積を進め、データマイニング手法で解析を行なう。さらにさまざまな業種からなる「スマートアグリコンソーシアム」を結成し、先進的な施設園芸を実現する取り組みを積極的に進めているという。

(次ページ、施設園芸SaaSでハウス設備を制御)


 

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ