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30年前のあの掌から抜け出ていない!?——ダグラス・エンゲルバート博士に聞く【再掲載】

2013年07月05日 00時00分更新

文● 聞き手/文=林信行、構成=報道局

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2013年7月2日(米国時間)、発明家ダグラス・エンゲルバート氏が逝去しました(関連記事)。エンゲルバート氏は、ハイパーテキストやGUI、ビットマップ・スクリーンなどの開発に関わり、特に「マウス」を発明した業績で有名です。コンピューター史に残る偉大な人物の逝去に、慎んで哀悼の意を表明します。

本ページは、ASCII.jpの旧システムにおいて1999年1月に公開していた記事を、現行システムに移行したものです。内容および記事中リンクなどは当時のままとしています(2013年7月4日)

 来週1月19日は、米アップルコンピュータが1983年に「LISA」を正式発表してから丸16年後にあたる。1月22日は同じく「Macintosh」を1984年に発表してから丸15年後。1月31日は富士ゼロックスが「J-Star」を発表してから同じく丸15年後。この1984年には、日本電気の「PC-100」も発表されている。

 いずれも、マウスとGUIの採用を前面に押し出した機種である。マウスの発明者として有名なダグラス・エンゲルバート博士が、1968年12月9日に“NLS”のデモを挙行してから、マウスが一般ユーザーの手に届くまで、10年を優に超える歳月を要したことになる。NLSは、マウスを採用した、いわばオフィスシステムの元祖である。

 本稿は、1998年12月8日に掲載したエンゲルバート博士のインタビューの後編である(前編は「マウスの誕生から30年、ダグラス・エンゲルバート博士に聞く」)。聞き手は林信行氏。

ダグラス・エンゲルバート(Douglas C. Engelbart)博士略歴

 1925年1月30日、米オレゴン州ポートランド市生まれ、73歳。オレゴン州立大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校にて電子工学の博士号を取得。

 米海軍、NACA(現NASA)エイムス研究所、USバークレー校准教授、スタンフォード大学研究員を経て、1959年からオーグメンテーション・リサーチ・センター(SRI)のディレクターを務める。同センター在籍時に、マウスやNLS(oNLine System)をはじめとする数々の基礎技術を発表。

 その後、Tymeshare社、McDonnell Douglas社を経て、1990年からBootstrap Allianceの創始者兼理事を務め、現在に至る。

 1998年5月には、コンピュータサイエンス分野でのノーベル賞と言われるチューリング賞を受賞。9月には全米発明協会の名誉殿堂入りを果たした。ちなみに、同氏の功績でもっとも知られているマウスの発明に関しては、政府の資金で運営されていたプロジェクトの一環だったため特許料を受けていない。

ネットワーク活用組織の実践では日本がリード!?

 マウスの発明者として有名なダグラス・エンゲルバート博士は現在、30年来提唱し続けてきた“Network Improvement Community(NIC)※1”を実現するため、Bootstrap Allianceの理事として精力的な活動を続けている。

——Bootstrap Alliance※2(以下、BA)が米国で立ち上がったのは1997年ですが、それまでの間は何をなさっていたのでしょう?

 「人々が協力して作業できるオープンな環境という、私が理想とする環境を構築するために働いてきました。1989年にはスタンフォード大学内に無料でオフィスを持つことができ、2年間このアイデアの布教に勤めてきたのです。途中、頓挫することもありましたが、1997年には米国でBAを結成することができました」

 「時間や距離を超えて人々が協力することやハイパーメディアの概念を実現したウェブが登場したことは、我々の考えに対する理解を促すのに有利に働いたと言えるでしょう」

1998年11月19日にBootstrap Alliance Japan設立事前発表会でスピーチを行なうエンゲルバート氏

※1 Network Improvement Community(NIC):エンゲルバート氏が提唱する、コミュニティー(組織)のあるべき形。損得などの垣根を越えて知識を共有し、デジタル機器を利用しながら組織の改善を行なっていくというもの。

※2 Bootstrap Alliance:1997年にエンゲルバート氏の提唱で組織された、NIC構想を機能させる枠組みを提供するための組織。1998年11月には、日本国内の学者や研究機関が集まり、Bootstrap Alliance Japanが結成されている。

——アメリカ以外の国々での活動はどうなのでしょう?

 「日本の熱心な支持者達が積極的にことを進めてくれています。私は、日本での実践の方が早く進展するのではと期待しているんです。米国では我々の考えに賛同する人は多いのですが、ことを実際に進めようとなるとペースが遅いのです」

 「ヨーロッパではオーストリア、スウェーデンやノルウェーでも実現しようと思っていますが、まだ実現していません。ブラジルからも来てくれないかという声が掛かっています」

——NICは組織同士による知の共同体ということですが、ライバル同士の企業でも協力し合うということなのでしょうか?

 「改善方法そのものをどうやって時流の流れに合わせて進化させていくかなど、抽象化の進んだ命題であれば、ライバル同士の企業でも損得の垣根を超えて共有できる知識が多いはずです。我々は、こうした事象をレベルC※3として分類しています」

※3 BAでは、コミュニケーションというものをレベルAからCまで分類している。大学を例にとれば、学生との対話そのものはAレベル、学生との対話手法を分析し向上させるための情報交換がBレベル、向上させる手法を向上させようとするやりとりがCレベルだという。Cレベルのコミュニケーションを、デジタルネットワークを通じて交換したり、ツールに組み込んだり、ツールを使う人間の側を高めたりする過程そのものがBootstrap Allianceのアウトプットである。

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