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テレビ産業の寿命を縮めた特需という“毒のアメ”

テレビメーカーが苦しむのは自業自得か

2013年05月28日 16時00分更新

文● 盛田 諒/アスキークラウド編集部

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アベノミクス効果か、量販店では「テレビの売上が戻った」という声も聞こえてくる。にも関わらず、メーカーはテレビ部門の赤字に苦しんでいる。赤字の主要因は、エコポイント特需頼みの販売計画と、メーカーのご都合主義的な商品開発だ。

 ビックカメラ最大面積のテレビ売り場を持つ、ビックカメラ新宿東口店(ビックロ)。売れているのは、50v型以上の大画面モデルだ。高齢者や富裕層だけではなく、年齢を問わず広く売れているという。

 理由は単純。大画面モデルの価格がウソのように安いからだ。昨年11月に発売された、50v型の東芝製テレビ「REGZA」は17万円。今の大画面テレビはどれも薄く、奥行きがコンパクトだ。これならアパートのように狭い家でも置ける。

昨秋発売の50v型液晶テレビ「REGZA」は17万円。信じられないほど安くなった

 「大画面テレビを買っているのは、アナログ停波を受けて32~40v型を購入したお客さまもいらっしゃいます。安くなったから、メインを大画面に切り換えた。言ってみれば、ごく普通の“買い替え需要”ですね」(売り場担当者)

 とりあえず駆け込みで買った小さなテレビは寝室に移し、リビングの大型モデルをそろそろ買い換えようかな、という需要が上がってきているそうだ。

 大型でも20万円台が中心となると、20~60v型まで選択の幅が増える。そこで需要が分散することはあっても、お客さんの予算も、お客さんの人数も、売り場の肌感では「そんなに変わっていませんよ」というのが本当らしい。

 買い替えで多額のポイントがつくため、スピーカーやWebカメラのような周辺機器もじわじわと動きが良くなっている。スマートフォンの周辺機器よろしく、これからはスマートテレビの周辺機器にも期待したいと、売り場担当者は余裕顔だ。


モノは売れてもなぜか不況
業界の寿命を縮めた行政の黒魔術

 売り場からは明るい話が聞こえてくるのに、なぜかメーカーの決算発表会は暗い。パナソニックもシャープもソニーも、テレビ事業はいずれも赤字だ。そんな「テレビはオワコン」感の元凶は一体どこにあるのか。

 主な原因は「特需」だと、専門家で株式会社クロス代表取締役の得平司氏は分析する。エコポイント、アナログ停波だ。

 サブプライムショックで泡を食っていた日本経済に打ち込まれた2本のカンフル剤は、たしかに一時的に消費者の需要を喚起し、片時のテレビバブルを起こした。アナログ停波のときは、ビックカメラ有楽町店に200人が行列を作ったこともあったという。

2大特需で薄型テレビの市場流通総額は急激に伸びた。しかしこれがテレビ市場の寿命を縮めることになる

 しかし特需は大量販売の可能性とともに、価格下落の危険性もはらんでいた。

 「エコポイントの需要もあり、中国にテレビのパネル工場がたくさんできた。しかし特需が終わると、パネルはダブつき、価格も一気に下落した。テレビの原価は60~70%がパネル代と言われる。原価が下がれば、どれだけ頑張っても価格は下がる」(得平氏)

 仕方なく各社が売りはじめたのが高付加価値商品「3Dテレビ」だったが、メーカー側の都合で開発された高いテレビが売れるはずもない。駆け込み需要の終了も重なり、テレビメーカーは大量の赤字在庫に苦しめられた。

 「メーカーには悪いが、自業自得というほかない」(業界関係者)

 現在、メーカーは各社ともに超高解像度の「4Kテレビ」を新たな高付加価値商品として売りはじめているが、得平氏は「テレビの家庭用ゲーム機化」を危惧している。

 「家庭用ゲーム機のビジネスが苦しくなった一因は、ハードだけが高性能になって高くなり、売上がソフトの開発費用に追いつかなくなったから。お客さんの求めるソフトの本数が減ってしまった結果、開発費をかけたゲームより、簡単で面白いケータイゲームに移ってしまった。4Kテレビも同じことにならないといいが」(得平氏)

 「4Kテレビは富裕層を中心に売れはじめている。そのうち価格帯もバランスしていくだろう」とテレビ売り場担当者は楽観しているが、今回は二の轍を踏まずに済むだろうか。


(次号アスキークラウドで詳報をお届けします)


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