Instagram映えもチェック?
このアプリでひと癖面白さを感じたのは、メガネをかけた自分の合成写真にフォトフィルターをかけることができる点です。ここが今っぽいなと思わされました。
これまで服やメガネが似合うかどうかで気にするべきは他人の目でした。3Dモデルによるカタログは、メガネを買う前にそのメガネをかけたら自分や友人、街の人といった他人の普通の目にどのように映るかを知る手段を提供してくれます。
しかし今はソーシャルメディア全盛の時代。友だちと遊べば写真を撮られ、いい感じに加工されてInstagramやTwitter、Facebookにシェアされます。少し鬱陶しい話かも知れませんが、テレビや雑誌に出る人でなくても、写真写りをものすごく気にしなければならない時代になってしまっているのです。
だったら写真を撮られて加工されてシェアされる前提で、あらかじめサングラスを選べたらどうだろう。メガネをかけた自分の合成写真にフィルターをかけられる機能は、そんな今っぽさを感じずにはいられませんでした。
ビジネスとプライバシーの話
一方、ビジネスの話。一度モデリングしてしまえば、人の顔はちょっとやそっとでは大きく変わらないでしょう。つまり、このデータを使うことで、顧客は次にめがねを選ぶときに最初から3Dモデリングをする必要は無く、すぐに自分の顔のカタログを参照したり、フィルター付きのイメージ写真をチェックしたりできるわけです。
例えば、ハリウッドスターやファッションアイコンがかけていたメガネをちょっと試してみて、似合ってたら買っちゃおうという、遊び心と勢いでのメガネ購買を誘うこともできるでしょう。何度も撮影し直すのは面倒だから、自分の顔のモデルはglasses.comさんが管理しておいてくれても良いんじゃないかとすら思います。
しかし担当者に話を聞くと、3Dモデルのデータが保存されているのはiPadの中だけで、glasses.com自体はデータを持たないと一貫して答えています。確かに正味3分で出来上がるのであれば、何度でも作り直しても良さそうなのは事実なのですが。
プラットホーム的なことを考えると、3Dモデルを使ってメガネの調整をしたり、似合いそうなメガネをおすすめしたり、「メガネのセミオーダー」見たいなことをしてくれても面白そうだとついつい質問を投げかけてしまいますが、「我々はメガネの製造元ではなく、販売元なので」と釣れない回答ばかり。
もちろん顧客がglasses.comでメガネを買い続けてくれるきっかけとして3Dモデルを活用することを考えていないわけではないでしょう。しかし顔の情報を丸ごと保存することは、その人のプライバシーのかなり重要な部分を持つことになり、情報の管理リスクの大きさや顧客からの理解といった問題に直面することになります。
またこのサービス初期の顧客体験を大切にするという側面もあるでしょう。筆者自身、時間をかけてiPadで、自分の顔にいろんなメガネをかけさせる作業は想像以上に面白かったからです。今後も身近にあるデバイスを使ったユニークなサービスや購買体験が広がり続けるでしょう。そのとき、顧客として「やるか、やらないか」「楽しいかどうか」といった視点は大切と言えます。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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