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モバイル通信はアマゾンの奥地の教育と経済も活性化させる

2013年01月04日 12時00分更新

文● 末岡洋子 写真提供●Ericsson

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 インターネットで地球は狭くなった――とはよく言われるが、地球上にはまだネットが使えない地域が数多く存在する。固定電話を持たない途上国が、モバイル技術の到来により固定網敷設プロセスを省略して一気に電話とインターネットへのアクセスを獲得することを“leapfrogging(飛び越える)”というが、ブラジルも例外ではない。

アマゾン川流域の人口500人の集落、スルアッカにそびえる基地局

 そのブラジルの中でも社会・経済発展が遅れてきたアマゾン川流域で、通信インフラ大手のEricssonが地元のオペレーターのVivo(Telefonica)やNGOと進めている2つのプロジェクトを現地で取材してきた。

3Gアンテナを搭載した医療ボート

 広大な南米大陸をうねりながら流れるアマゾン川はいくつもの支流を持つ。タパジョース川はその1つだ。タパジョース川が本流に流れ込む融合地点近くの都市、サンタレンを拠点に、1年程前から「ABARE」という名のボートが川を移動して、流域に点在するコミュニティーに基本的な医療ケアを提供している。

アマゾンの住人に医療を提供する「ABARE」

 現地の言葉で”友人をケアする”を意味するABAREは、診察、検査、投薬までを備えた医療施設を持つだけではない。上部には3Gアンテナも持ち、近くの基地局に接続してモバイル通信を可能にしている。ボートに乗り込んだ医師や看護師らは3G通信を利用してレントゲンなどの検査データを遠隔にある医療施設に送ってセカンドオピニオンを求めたり、精密検査の結果を送受信し、効果的な医療サービスの提供に役立てている。

ボート内の医療設備。内科、歯科、小児科、産科など基本的な医療を受けられる

 周囲に通信を遮るビルや木などの障害物がなく、電波干渉がない上に河面反射によるミラー効果により感度は非常によいとのこと。初代ABAREの成功を受けて、現在医療ボートは2隻になった。2隻で約150のコミュニティーを周り、そこに住む合計3万人の人に医療サービスを提供している。政府もABAREの実績を認め、今後6年間で100隻を目標に投資する計画だという。

 約10年前にアマゾン川流域の医療実態を知り、ボートを利用した医療ケアというアイデアを思いついたのが医師のFabio Tozzi氏だ。その後、地元の医師Eugenio Scannavino氏、それにNGOのSaude e Alegriaと実現に向けて取り組んだ。

医師のFabio Tozzi氏

 「政府は約20年前から国民全員が同レベルの医療を受けられることを目標としているが、アマゾンの現実は大きく異なる」とTozzi氏は説明する。同じブラジルでも、サンパウロなどの都市部の住民が得られる医療レベルとは大きく乖離している。人口比でみた医師の数が圧倒的に少ない上、交通手段も限られている所得の低い流域のコミュニティーにとって医療ケアは切実な問題だ。Tozzi氏は今後、医療ケアはもちろん、水をはじめ衛生や健康に関する情報の提供もボートで行っていき、コミュニティの健康レベルを全面的に押し上げていきたいと期待を語る。

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