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人気の新書の筆者に迫る

『ビジネス寓話50選』 100年前の物語「寓話」がなぜ今?

2012年12月30日 01時18分更新

文● アスキー新書編集部

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読むだけじゃなく、考える行為に意味がある

――お気に入りの寓話は?

山田 典型的なビジネス寓話としては冒頭の第1話「大きな岩を先に入れろ」ですかね。有名ですが、やはり本質をついている、と。 「どう解釈しよう」みたいに悩んだ寓話も気に入っています。たとえば、第26話の「冗談じゃない。百のものはここにある」はそもそも詩です。厳密な意味では寓話じゃない。でも、読んで感じるところがあるから入れようということになり、みんなで話しながら解釈をまとめていった結果、お気に入りの一話になりました。

ボヴェ 寓話を選ぶにあたって、子ども心みたいな柔軟な姿勢は忘れないようにしました。あえて詩だったり、宝塚の張り紙(第38話「ブスの25箇条」)だったり、いわゆる寓話じゃないんだけど、気づきのあるものは入れたかった。読むときのことを考えると、物語ばかりが続くよりはアクセントになりますし、違った視点や気づきがあるような抽象的な短い寓話を入れられたのはよかったかな、と。

山田 オリジナルの寓話を入れようという話もありました。

ボヴェ 「粘土」という話で、実は僕が大学時代に論文に書いていた話なんです。人間は粘土だ。やわらかいときは自由に加工して、様々な形になるけど、焼いたり乾燥させたりすると、固くなる。子供の時は自由で、いかようにも成長できるけど、大人になると固まってくる。固くなるのはいい面もありますが、衝撃によって割れたりするようにもなる。今は変化の激しい時代なので、固まることを目指すよりも、ずっとやわらかいままでいたほうがいいんじゃないかな、と。

――この本が受け入れられている理由はどのあたりにあると思いますか?

宮澤 第2話の「漁師ティコとウォールストリートのアナリスト」が象徴的です。右肩上がりの時は目標が明確でやることも決まっていた。スピードと効率がすべてだった。しかし、人口が減少していて、国内の市場は伸びずに、減っていくという時代になった。そういう認識を持った時に、「ビジネスで何をやればいいんだろう?」という疑問を多くの人が持っているのではないか? 「何のために仕事をするのか?」という回答探しをしている人に、読んでもらっているんじゃないかと思います。

山田 知人からは「この寓話が面白かったよ!」とか「こう解釈したよ!」とか「こんな寓話もあるよ!」といったメッセージをもらっています。  前書きで寓話の持つ力として、「体験させ力」「感受させ力」「参加させ力」という話を書いているんですが、読んでくれた人が自分ゴト化して参加したくなる魅力を感じてくれたのはうれしかったですね。

ボヴェ この一冊を読むだけで何かが変わるわけじゃないし、この本以外にもそんな便利なものはこの世には存在しないと思う。たぶん、何かの答えが欲しいわけじゃなくて、自分自身でモノを考えたいという人に読んでもらえているのかな、と。

 今の時代は単に受け身でいるより、自分で何かを発信したり、人に勧めたりすることが面白い。この本も寓話をひとつ読んだら、解釈を考えて、人に伝えたくなったり、「自分はこうだと思う」という主張をしたくなるのが、ひとつの快感になっていると思う。

 単に「いい寓話を読んだ」というだけじゃなくて「寓話を読んでいろいろ考えた」という刺激があるんじゃないかなと思います。

宮澤 そういう意味ではデジタルメディアに近いですよね。SNSで盛り上がるコンテンツと似ている。人に勧めるとか、コメントできるとか、加工できるとか。

ボヴェ 寓話を探して、いろんなビジネス書を読んでいるときに、同じ寓話なのに違った解釈をしている本もありました。また「最初に知ったときは違う話だった」とか「自分が知っているものとは解釈が違う」みたいなことも多かったんです。やっぱり人と人の間で語られていたもので、時代時代に合うような解釈や伝えたいメッセージに合わせて寓話の内容が変わるところもあるんでしょう。

宮澤 先ほどの粘土の話とも共通しますが、柔軟性があって、手が入れられそうなところも寓話のいいところなんでしょうね。第13話の「暗闇の中の象」も調べていくと、舞台がインドだったり、中国だったり、話も長いものから短いものまであったり。第29話の「天国と地獄の長いスプーン」も、スプーンではなく、お箸の話だったりとか。

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