書籍もコンテンツの形が変わるのか?
文字主体の書籍はデジタルの画面で読むとしても、筆者はさほどストレスを感じません。しかし写真主体の雑誌などは、iPad miniはおろかiPadのサイズであっても迫力がないし、Kindle Paperwhiteのモノクロ画面では良さが伝わってきません。これも慣れや感覚の問題かも知れませんが、雑誌は単なるデジタル化だけではスムーズな移行を果たせないのではないか、と思います。
また、音楽がデジタル化してストリーミング型が登場したように、書籍のコンテンツも今までとは違うコンテンツの型や流通が登場するのではないかという期待もあります。これはどちらかというとウェブやメールマガジンに近いかも知れませんが、電子書籍の体裁で週刊、月刊でコンテンツが増えていくという仕掛けも楽しめるでしょう。
そしてもう1つ、日本でも、Kindle Direct Publishingの仕組みが登場しました。これは、著者が直接Kindleにコンテンツを掲載して販売することができる仕組みで、iPhoneやiPadのアプリマーケットApp Storeや、Android向けのGoogle Playと同じデジタルマーケットプレイスになります。これまで出版社を通じたプロセスを経て出版されてきた書籍が、直接の出版も可能になると言うことです。
例えば著者本人が、あるいは著者と編集者のコンビがKindleで本を作ると言ったことも可能になりますし、同人誌をデジタルで流通させる場として、新しい本の文化が登場することも期待できます。筆者も年明けに、ITとは全く関係ない本を1冊、Kindle向けに出してみようと計画中で、これについてはまた別途紹介しようと思います。
このような状況もYouTubeやSound Cloud、ニコニコ動画にコンテンツをアップロードして、レコード会社を通さない音楽を楽しめるようになった流れに似ています。では、音楽ビジネスがライブによる収益に移行しているとすれば、書籍でいう“ライブ”とはいったいどんなものになるのでしょう。トークショー、講演会、ワークショップ、いろんな形態がありそうです。
街の古本屋さんはアメリカでもまだ無くならない
日本よりも5年早くKindleが登場し、電子書籍が珍しい光景ではなくなりつつある米国で、書店はどうなっているでしょう。ショッピングモールなどでは、Burns and Nobleなどの規模の大きな書店があり、Starbucksのカフェを併設した空間を作っていますが、街中で新刊のみを扱う書店を見つけるのは難しいのです。
バークレーは学生街ということもあり、書店は街中にも何件もありますが、新刊のみを扱っている書店はありません。中古の蔵書と共に新刊も一部扱う、というスタイルがほとんどで、本の買い取りも各書店で行っています。米国では教科書などの学習に利用する書籍や、資料性の高い書籍は高額で、中古市場でも重宝される存在です。一部はデジタル化されているものもありますが、その多くは紙の書籍のまま。これらを見つける場として、街の本屋さんは機能しています。
隣町オークランドにも似たような書店がありましたが、この2Fには古書を扱う屋根裏部屋みたいなスペースがありました。100年前の本や、さらに古いヨーロッパなどから入ってきたような古い旅行記などが並んでいました。もちろん紙も装丁も劣化していましたが、100年以上前の本が、本としてきちんと機能しているところを見ると、とても感慨深いものがあります。
おそらく現在私たちが移行しようとしているデジタル、そしてクラウドのコンテンツの方が、一度購入した本をいつでもどこでも読めるという環境は作りやすいでしょう。しかし記録として残るものとしての本の役割は、まだ終わっていないのではないか、と思わされます。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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