中国でも「リビングにテレビ」はもう古い?
中国では6月末の時点で5億3800万人のインターネットユーザーがいて、そのうち3億5000万人が動画共有サイトを利用しているという。都市部の若者は、利用頻度の差こそあれ総じて利用していると言っていい。
中国でも若者(=インターネット利用者)のテレビ離れが起き、「生活力が十分にあるとアピールすべく、リビングに高級そうなテレビを置くという概念はもう古い」とばかりにテレビがリビングに置かれなくなっている家庭が増えている。その中で、リビングに家族を集めて、コンテンツは何でもいいからテレビを見てもらおうというわけだ。
「再生するのはネットコンテンツでもいいから、テレビを導入してほしい」という考えが垣間見られる中国のI'tvを見たところで、改めて日本を俯瞰してみると、REGZA Tabletしかり、古くはソニーのロケーションフリーもそうだが、「どんなデバイスでもいいからテレビを見てほしい」という考えが根底にあるように思えないだろうか。
ちなみに近日登場予定のREGZA向けクラウドラービス「TimeOn」(タイムオン)も、「テレビ番組などの映像コンテンツを話題として共有できるSNS」をうたっている。
実は中国ではテレビ局が番組をネットで配信している。最近になってI'tv用のタブレットに第2世代の機種が投入されたが、こちらではテレビと同じ番組をインターネットで放送する「中国網絡電視台(中国インターネットテレビ局、CNTV)」のアプリがプリインストールされている。
つまりCNTVの番組をタブレットで再生して、それをリビングの専用テレビで流すことができるわけだ。「はじめに海賊版がありき。ならば広告付きで無料配信してしまえ」という環境ゆえに、動画サイトもテレビコンテンツも新聞すらも無料で配信されているが、その積み重ねでI'tvのパッケージが完成したとも言える。
問題はあまり売れていないこと……
お膳立ては揃っているが売れるかというと微妙で、家族の団らんのために、リビングに大枚払ってまでテレビを置くくらいなら「モバイルデバイスでいい」と思う消費者も多い。
実売価格は、タブレットについては7型モデルが1299元(約1万6500円)、10.1型モデルが2299元(約2万9000円)だ。対応するテレビは、46型LEDバックライト液晶採用の機種は約5000元強(約6万3000円)で、「リビングにもタブレット連携で、ネットの動画コンテンツ」一式揃えるのに8万円はかかってしまう。
いくらパッケージ商品とはいえ、タブレットのスペックも魅力的な最新スペックではなく、同社のI'tv機能非対応の46型LEDバックライト液晶テレビが1000元安い4000元強(約5万円)で買えるわけで、I'tv製品は実際のところあまり売れてはいないようだ。
そもそも、横置き型のリビングPC向けのベアボーンをIT系メディアがプッシュしていたが普及しなかった過去がある。「リビングにインターネットコンテンツ」のコンセプトが売れなかったのはI'tvが初めてのケースではない。
だが、今後の中国におけるスマートテレビの方向性だけでなく、基本スペックしか差別化のなかったタブレットの方向性も提示し、さらには同じ会社の情報家電・白物家電をネットワークで結びつけ管理する日本の家電メーカーのような方向性も提示している。この点は評価すべきだし無視できないだろう。
I'tvは日本でならヒットするか?
ノジマは50型の海信製液晶テレビを9万9800円という価格で販売している(ニュースリリース)。中国では標準ではない録画機能も搭載している。
ならば中国では陽の目があたることのなかったI'tvを日本に持って来れないだろうか。中国よりもテレビ本体がまだ若い世代の間でも利用されているように思うので、日本人のほうがよりI'tvを活用するように思うのだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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