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IDF 2012レポート

インテルが無線技術で狙う「Moore's Law Radio」とは?

2012年09月28日 12時00分更新

文● 塩田紳二

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ここ最近は恒例となっている、IDF最終日のジャスティン・ラトナー氏による研究開発に関する講演の様子

 9月11日から3日間、米国サンフランシスコ市にて開催された開発者向けイベント「Intel Developer Forum 2012」(IDF 2012)。IDF最終日の基調講演は、例年インテルの研究開発部門が担当している。パトリック・ゲルシンガー氏(現VMware CEO)が研究担当役員になって以来、最終日の基調講演は現在の製品ではなく、将来の技術を語るものとなっている。講演を担当するのは、シニアフェローでインテル副社長兼CTOのジャスティン・ラトナー氏である。

 研究開発部門の講演だけに、すぐに製品という結果が出るものは少ない。しかし「Xeon Phi」として製品化されたメニイコアプロセッサーなども、最近まで研究テーマとして基調講演で語られていた技術のひとつだった。

Xeon Phi(右)

微細化しにくいアナログ回路

 大きな部屋を占領していたコンピューターが小さな半導体上に集積され、さまざまな周辺装置も半導体化されることで、大きさや消費電力が小さくなる。こうしたコンピューターの進化を見ると、究極的には現在のPCや携帯電話は、洋服のボタン程度にまで小さくしてしまうことも不可能ではないことが見えてくる。こうしたデジタル化や半導体化は、インテルが行なっていることそのものだ。

 今回の研究開発部門による講演のテーマは「Wireless」。つまり無線技術だ。 中でもメインディッシュとなったのは、インテルの研究部門が完成させた、「ほぼデジタル回路で構成した無線デバイス」である。無線LANや携帯電話、Bluetoothなど、コンピューターが扱う無線技術は多岐に渡る。これらはすべてデジタル信号を伝送する技術だ。「だったら回路はデジタルなんじゃないの?」と思われるかもしれないが、無線技術は、送信する情報がデジタルデータであるだけで、回路自体はほとんどがアナログ回路なのだ。

 なぜなら、最終的に送出される「電波」自体がアナログ信号であり、無線データ通信とは、この電波を送信したい情報に合わせて「歪めて」送り、受信側は「歪み」だけを取り出して、元の情報を取り出すものだ。

 そのため、無線LANや携帯電話、Bluetoothなどのデジタル通信技術でも、伝達したい情報を表す信号(ベースバンド信号)より先の部分は、ほぼアナログの回路になっている。こうしたアナログ回路は、実際にはトランジスターや抵抗、コンデンサーやインダクター(コイルの役目を果たす回路)などの部品から構成されている。LSI化に向いた回路構成はあるものの、トランジスターなどの部品で作られた古いラジオと同じような回路が、半導体上に作られていると思えばいい(若い方ではイメージしにくいかもしれないが……)。

 アナログ回路のLSI化には、大きな問題がある。それは半導体プロセスが微細化されたとしても、アナログ回路部分は簡単には小さくできないためだ。理由のひとつには、回路を構成するコンデンサーやインダクターが、小さくなると容量も小さくなってしまうためである。例えばコンデンサーなら、容量が大きなものは大きな部品になってしまう。アナログ回路はデジタル回路に比べるとノイズの影響を受けやすく、扱う信号の電力をむやみに小さくできない。そのためトランジスターなども、小さくできないという問題がある。

無線通信回路はアナログ回路だが、そこで使うコンポーネントは回路面積を縮小することが困難。例えばコンデンサーを小さくしてしまうと、容量まで小さくなってしまう

 またもうひとつの問題点としては、デジタル回路とアナログ回路では、半導体を作る「プロセス」が違うという点がある。トランジスターの種類が違うので、別のプロセスを使う必要がある。アナログ回路とデジタル回路を同じダイの上に集積したものを「混載デバイス」と呼ぶが、この混載デバイスを作るためには、特殊な製造工程が必要となる。普通のデジタル回路のプロセス、特にインテルがCPUの製造に使っているようなプロセスでは、混載デバイスは作れないのだ。

 そこでインテルが開発中の技術に、「Radio Free Intel」がある。これはプロセッサーなどのデジタル半導体に、無線通信機能を搭載する技術だ。こうした方向性が示された背景のひとつには、デジタルデバイスが高速化して信号周波数が高くなると、将来的に銅線による接続が困難になるという予測がある。解決方法のひとつは光による接続で、インテルはデジタル光モジュレーターや半導体レーザーなどの研究を続けている。今回の基調講演でも触れられたが、本稿の主題とは離れるので割愛する。

 かつてのIDFでゲルシンガー氏が唱えた「Radio Free Intel」は、ここまでに説明した問題があったため、ある意味とんでもない計画だった。ゲルシンガー氏はその後インテルを去ったが、インテルの研究陣は無線通信をデジタル化する研究を、ずっと続けていた。その成果がある程度具体的な形で発表されたわけだ。

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