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IDF 2012レポート

インテルが無線技術で狙う「Moore's Law Radio」とは?

2012年09月28日 12時00分更新

文● 塩田紳二

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60GHz帯でGigabit級無線通信を実現!?
インテルが力を入れる「WiGig」

 インテルが披露したもうひとつの無線に関するデモで注目に値するのが、「WiGig」である。WiGigとは規格化団体「Wireless Gigabit Alliance」が開発している、60GHz帯を使う無線通信規格だ。基本的には無線LANと同じようなプロトコルスタックを使うが、PCI ExpressやUSBなどのI/O接続、DisplayPortやHDMIなどのメディア系接続のプロトコルを扱う「PAL」(Protocol Adaptation Layer)を定義し、7Gbps程度の通信を可能にする。

WiGigはPHY層にIEEE 802.11adを、その上のMACには802.11系のものを強化した専用のものを利用する。その上に各種インターフェースを作り、TCP/IPによる無線通信だけでなく、HDMIやDisplayPort、USBやPCI Express信号を伝送する

 60GHz帯は直進性が高いので、光のような進み方をする。また波長が5mm程度と小さいため、日常的に存在するほとんどのものを通り抜けられず、10m程度の見通し範囲でしか通信ができない。そのため、WiGigでは「ビームフォーミング技術」を使って、室内では反射を利用して、直接目視できないデバイスと通信しようと考えている。

 ビームフォーミングとは、指向性の強い電波の送信方向を制御する技術と、特定方向からの信号を受信できるよう制御できるスマートアンテナを、組み合わせた技術だ。相手のアンテナが直接目視できる場合には、そこに向かって送信すればいいが、ほとんどのものに反射されてしまう60GHz帯の通信では、必ずしも相手のアンテナが見えるとは限らない。このような場合にビームフォーミングを使い、壁や天井などに反射させて相手と通信する。「反射衛星砲みたいな通信方式」と言えば、ASCII.jp読者にはイメージできるだろうか? 通信中に電波の前を人が横切ったりすると、ビーム方向を変えて最適な送信方向を選択する。

 こうしたアイデアは、ディスプレーやメディア向けの「WirelessHD」という仕様が最初に採用した。2008年1月に開かれた家電展示会「International CES 2008」では、パナソニックなど国内家電メーカー数社が、WirelessHDのデモを披露した。HDMIの無線接続を想定しており、SiBEAM社(その後Slilicon Image社に買収)がCMOSデジタル回路で無線部を開発していた。このときすでに、ビームフォーミングによる通信が盛り込まれており、送信部は指向性の高い電波の方向を制御できるようにしてあった。

 こうした技術がインテルを刺激したように思える。インテルもWirelessHDコンソーシアムに参加し、北京で行なわれたIDFでは、ワイヤレスディスプレー技術のひとつとしてWirelessHDをデモしている。このときには通信に無線LANを使う方式も展示され、それが後に製品化されたのが「WiDi」である。しかし、WirelessHDはHDMIなどのAV系ストリームの送信を想定したもので、コンピューターでのデータ通信用途は想定外だった。そうした理由もあり、インテルは関係する各社と共に、同じく60GHz帯を使うWireless Gigabit Allianceを設立する。

 IDF 2012では、ディスプレーやドッキングステーション(ドッキングしないが)を無線で接続するというデモが実演された。非常に地味なものではあるが、60GHzという高速な無線通信を行なうデバイスの製造に、ある程度のメドがついたのであろう。

 インテルはかつて「UWB」(Ultra Wide Band)で、高速無線データ通信による機器接続を実現しようとしていた。しかしUWBは規格化が難航し、結局「Wireless USB」として仕様が作られたものの、普及することはなかった。問題は広い範囲の周波数を使うため、各国で帯域確保が問題になったことだ。インテルが提唱したUWB方式(狭義にはUWBではないと言われる)は、各国のバンドプランに対応できるように複数のキャリアを使う「Multi-Band OFDM」方式だったが、それでも480Mbps程度の通信速度しか確保できず、USB 2.0の域を出なかったからだ。

 また、無線通信方式であるために接続するデバイスをどうやって認証させるかの部分で、規格化が難航したという経緯もある。当時この点ではBluetoothが先行していたものの、現在に比べるとトラブルも多く、Bluetooth方式のペアリングの採用に躊躇するメーカーも多かったという。

 これに対して60GHz帯は近距離通信に限られるため、遠方まで伝達する他の周波数に比べると、各国での規制は緩い。またWiGigでは、無線の制御部分となるメディアアクセス制御層(MAC)部分に、無線LANのMAC部分を改良したものを使う。そのため接続先の設定などには、「WPS」のような既存の無線LANで使われるプロトコルがそのまま利用できる。つまり設定に関して言えば、無線LANとほとんど同じになるわけだ。その下の物理層(PHY)は、60GHz帯をカバーする「IEEE 802.11ad」を使う。WiGigを使えば、物理層に802.11adや11a/b/g/nといった無線LANの技術が利用できるうえ、MAC層の互換性もある。

 問題は60GHzと非常に高い周波数を扱うことで、そのためにデバイスの開発に時間を取られていた。しかし、今回のデモを見る限りはうまく動作しており、あとは製品としてのデバイスの登場を待つばかりといった感じである。

 無線LAN登場以前、インテルは無線技術を扱うメーカーではなかった。しかしIDF 2012の基調講演では、いつのまにか無線通信技術もインテルの主要な技術分野となっていることに気付かされる。しかも、これまでアナログ回路であったために、インテルでさえも外部企業に製造を委託するしかなかった無線チップを自社で製造できるばかりでなく、CPUに統合できる方向に動き出している。

 実用化にはどれだけ時間が必要なのかはわからないが、将来のコンピューティングに必要なものは、すべて自分で製造してCPUに統合する。インテルがそういう方向を目指していることは、間違いないようだ。

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