3Dプリンターが扉を開く新たな世界
――最近のトレンドとして3DプリンターやArduino(アルドゥイーノ:マイクロコントローラを搭載したプログラマブル基板)がありますが、これらは将来、モノ作りにどう影響していくと思われますか。
ダハティ:3Dプリンターなどが登場したことにより、これらが社会にもたらす影響は計り知れません。3Dプリンターはこれから周辺機器やインフラがどんどんでき上がってくるでしょうから、まだ発展性があると思います。
3Dプリンターが出てきたことで、モノ作りでもいろんなものができ上がるでしょうし、コンポーネントとなったりモジュール化したりして使いやすくなり、やがてスタンダードになれば、使い方に困っていても助けてくれる人たちが出てくるはずです。3DプリンターにしろArduinoにしろ、そこから新しいアプリケーションやコミュニケーションが発展することでしょう。
――Maker Faireに参加した学生がホワイトハウスに招待されましたが、ホワイトハウスではどんな話をされたのでしょうか。
ダハティ:私はホワイトハウスから「変革の旗手(Champion of Change)」という栄誉をいただきました。ホワイトハウスにはMaker faireに出展したことのある中学生Maker、ジョイ・ヒューティー(Joy Hudy)が招かれ、彼が作成した「Extreme Marshmallow Canon」というものを持って行きました。オバマ大統領が「本当に使えるのか?」と言うので「使えますよ!」と言ってホワイトハウスの中で動かした瞬間、オバマ大統領が口をあんぐりと開けて驚いているおもしろい写真もあるんですよ(笑)。アメリカ政府は、ビジネスの改善性、イノベーションが作れるのか、そして教育という3つの側面から、こういったモノ作りに関わる人に興味を持っているようです。
とくに重要な概念は、技術の民衆化です。たとえば3Dプリンターのように、一般の人が使うにはコストが高かったものが手に届くようになり、いろんな人が技術に触れるようになりました。だからこそ、モノ作りをしなければ技術の民衆化は意味をなさないのです。教育の側面では子どもたちが退屈しないようにする教育の手助けをすれば子どもたちの才能が育ちますし、ビジネスの可能性としては新しいポテンシャルを与えることができる。こうしたことに政府は興味を持っているのだと思います。
ただ、誰でも何でも作れるようになっている今、教育の現場に3Dプリンタが導入されるのはいいことですが、理系か文系かという分け方をしないでモノ作りの指導をしたほうがいい。たとえば理科系のクラスだけでなく、文系のクラスでも3次元のモノをデザインするような指導です。Joy Hudyは「退屈するな、モノ作りせよ」という言葉を書いた名刺をオバマ大統領に渡していました(笑)。
――日本の町工場でも次世代に伝えようとする活動はしていますが、もっとこうしたら子どもたちに伝えられるのではないかという提案はありますか?
ダハティ:例えば子どもたちに3Dプリンターを見せて、これも産業のひとつであると伝えて、子供達の固定したイメージを変える。そして子どもたちが遊びでちょっとしたものを作れるように体験させ、自分が参加し、それによって世の中が良くなるものだと教えれば、子どもは飛びつくと思います。労働者はホワイトカラーとブルーカラーというように分けられていましたが、もう時代は違う。知的労働がいちばん早くアウトソーシングされて、よりコストを安くするソフトや人が登場します。そういう時はモノ作りをできる人が最後に残ることが多いはずです。
――2日に開催されるMaker Conferenceの講演ではどんなことを話したいですか?
ダハティ:Maker Faireは社会的な活動だということです。何かモノ作りをすることが大好きな人たちが集まって、触れあうきっかけになるためにこのイベントであり、これがMakerムーブメントなのです。1人1人の持っている価値が世の中を良くしていくのです。それがビジネスになっているか、教育に役立っているのか、くだらないと思うことでも何でもいい、周りにモノ作りをしている元気な姿を見せられればいいんです。失いたくないモノ作りの伝統を受け継いで、次の世代によい形で渡していこうという話をしたいと思っています。
――なるほど、ありがとうございました。