Appleは自社案のSIM仕様について
ロイヤリティーフリーでの提供を約束
またApple案ではSIMトレイがあるために携帯電話の設計をこれまでと変えないといけなくなるデメリットがある点も主張しているようだ。NokiaはAppleのSIMはmicroSIMと少なくとも1つの辺が同じ長さでユーザーが間違えて入れてしまう可能性があること(ETSIでは、ユーザーが世代の違うSIMを混乱しないように新世代ではサイズを変えるよう求めている)、トレイの存在によりサイズ縮小はそれほど期待できないことなどを挙げ、自社の提案の方が技術的に優れていると説明している。
一方のApple側もちゃんと動いていたようだ。Orangeに加え、Vodafone、Telefonicaなどのオペレーターを味方につけ、自社の欧州子会社を通じてETSIで確保する議席数を増やした。それだけでなく、ETSIに対し、自社案が標準となった場合は関連する特許をロイヤリティフリーで提供することを約束する書簡を送っていたことが、無線関連の特許分野に明るいFlorian Muller氏により明らかになった。条件は、自社技術が標準となること、他の特許保有企業が相互に供与しあう互恵主義に合意することだという。
モバイル業界では標準に必要な技術に関する特許をFRAND条項でライセンスする、というのがこれまでのパターンで、標準技術をロイヤリティフリーで提供するという提案は、これまであまりなかったことだ。
だがNokiaはこれにも噛み付いた。ETSI投票が間近にせまる3月末、NokiaはApple案が選ばれた場合は自社が保有するSIM関連の特許を供与しないと言い出した(NokiaはSIMに関連する特許を50件以上保有していると主張している)。同社はまた、Appleが約束するロイヤリティフリーについても、Appleは実は自社案のSIMに必要な特許を保有していないと述べている。RIMも投票前日の28日、Apple社員が他社代理として代理投票を行おうとしているとして、ETSIに苦情を出したと報じられている。
次世代SIMの標準は5月末に大阪で決まる?
このように緊張が高まる中、ETSIは3月29日と30日に南フランスでミーティングを開いた。だがETSIは30日、4FF SIMについての決定を先延ばしにすることを発表した。その理由として、業界の幅広いコンセンサスを得る必要があると説明している。次回の投票は5月末に大阪で開かれるミーティングとなるが、その前にミーティングを持つ可能性もあるという。
昨今モバイル関連の特許係争が絶えず、標準と特許の重要性が増している。nano-SIMはそのタイミングで生まれる新しい標準となる。5月末のミーティングであっさり決まることになるのか? ひょっとするとまだ時間がかかるかもしれない。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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