犯人写真とSNSの個人情報マッチングで犯人探し
今回は、もうひとつの主題として「騒動を拡大させたのがITなら、それを“解決”できるのもITだ」という動きをさらに追ってみたい。当初、暴動参加者の行動にひたすら振り回されていたロンドン警察だが、騒動後期にはソーシャルメディアを活用することで、参加者の行動を前もって把握して動きを封じたりするなど、IT活用が目立つようになった。
その中でも特に話題となったのが、ロンドン警察による暴動参加者の顔写真一挙掲載だ。「Operation Withern」の名称で立ち上げたページには、暴動に参加して他者への暴行や傷害行為、器物損壊、放火、窃盗など、これら行為を行なった人物の監視カメラ映像などを基にした顔写真が掲載されている。
そしてこれら写真は、写真共有サービス「Flickr」にアップされているため、世界中の人間が共有し、閲覧できるのだ。Operation Withernのページには通報用の連絡先が記載されており、まさに「この顔にピンときたら110番」というわけだ。
素材があるのなら、IT技術を駆使することで犯人検挙を進められるはずと考える者も登場し始めた。暴動が拡大し、犯人写真の掲載がスタートした9日前後には、Google Groups上に「London Riots Facial Recognition」というグループがユーザー有志らによって作成された。顔認識(Facial Recognition)技術を使って写真素材を基に犯人を特定しようというものだ。
これは、face.comによる顔認識技術APIサービス「face.com API」(無料)を使って、Flickrの掲載写真を基にした犯人特定システムを構築しようというもので、「犯人がソーシャルネットワークを使って犯行を行なったのなら、そこにある個人情報を顔写真データベースとマッチングさせて犯人を見つけ出そう」というアイデアだ。
FacebookやTwitter(のAPI)を組み合わせて、掲載されている写真とデータベースをマッチングさせれば、自動的に犯人の名前やプロフィールが取得できることになる。
ITならではの合理的なアイデアである一方で、そもそも掲載されている写真が違った人物を特定している可能性や、認識精度の問題による誤認識の可能性、さらにはソーシャルネットワーク上に偏在する個人情報をクロールして犯人捜しを行なうという、気味悪さと倫理的な問題がある。
こうした動きには前述のグループ内部でも慎重な意見があったようで、8月11日時点でこの顔認識技術を使った犯人捜しのシステム構築計画は中止されたとグループのオーナーが説明しているという。
結局のところ、テクノロジーに一方的に頼るのではなく、利用は適時必要な部分に止め、えん罪やプライバシー侵害に触れないレベルでボランティアベースの捜索活動を続けていく形になりそうだ。
テクノロジーサイドの人間としては、犯行の拡大スピードやそれへの対処など、ITがこれほど頻繁に利用され、さらに高度化した活用を模索するスタイルは、かつてない動きで非常に興味深い。
まず、スマートフォンの普及でスムーズで素早い情報共有が可能になったことが暴動を拡大させ、その一方で、当局による対応/収束ではソーシャルメディアを逆探知する形で活用された。犯人探しにはソーシャルメディアのクラウド共有機能が利用される。
また今回は利用されなかったが、ソーシャルメディアとデータベースを連結して、顔認識技術による自動マッチングシステム構築が提案されるなど、一昔前のSF映画の世界を再現したかのような流れだ。
イギリス首相のSNS遮断発言や、アメリカの地下鉄BARTでの実際に携帯電話の電波をストップした話など、プライバシー以前に今後権利の部分で議論を呼びそうな話題が続いている。争乱とIT活用の関係について今後さらに深い議論が進んでいくことだろう。