4年に1度のスポーツの祭典であるロンドン五輪まで半年を切った。出場選手などスポーツ界の話題も気になるが、開催地ロンドン発のイベント関連ニュースもちらほら聞こえてきた。ハイテク分野ではスマートフォンなどモバイルインフラが試されるイベントとなりそうだ。今回はそのいくつかを紹介したい。
観光客殺到で気になるケータイインフラは
軍事用の周波数を開放して対応する
ロンドン五輪は、スマホやタブレットが本格普及して初の夏季五輪といってよいだろう。会期中の関係者はもちろん、地元市民や観光客がモバイルで連絡をとりあったり、SNSなどで情報を更新・共有したり、最新情報を得たりすると思われる。
そこで気になるのがインフラだ。そうでなくても、モバイル端末の普及によるトラフィック対策にオペレーターが追われている。この状況はイギリスも同じだ。ちなみに、イギリスはまだLTEの商用サービスは始まっていない。LTEはまだ試験段階で、年内に商用サービスがはじまるかどうかというところ。よって、7月末に開幕するオリンピック期間中は、3Gと無線LANで需要増に対応することになる。
周波数帯不足を予想した通信規制当局のOfcomは1月、防衛用途で政府が所有する周波数帯をオリンピック期間中に一時的に借りる計画を明らかにしている。2011年春のロイヤルウェディング、シルバーストーンで開催されたF1などのイベントでのトラフィックをモニタリングした結果の判断で、「ロンドン都市部は世界的にみてもモバイルが混雑した地域であり、五輪での需要増は必至」とOfcomは事情を説明している。
ケータイが使えないロンドンの地下鉄
古すぎるインフラがアダに そこで無線LANで対応
携帯電話のカバレージといえば、現在ロンドンを走る地下鉄でのモバイル利用は、駅構内でも車内でも難しいのが現状だ。だがここでは1つ、進展がありそうだ。
地下鉄でも通話できるようにしてはどうか――おとなりのフランス・パリではすでに実現していることもあり、1年前にロンドンの地下鉄でもプラットフォームや走行中の電車内での3Gでのカバーが検討されていた。中国のインフラ大手Huawei Technologiesが数千万ポンド規模の機器の寄贈を申し出るなど積極的に推進を図ったものの、結局このプロジェクトは頓挫となった。
最大の理由はコストだ。ロンドンの地下を走る鉄道は“tube”という愛称で親しまれる世界最古の地下鉄だ。古いがゆえにトンネルはおそろしく狭く、エリア化するにはコストがかかる。このコスト負担について、オペレーターとTfL(ロンドン市交通局)の折り合いがつかなかったようだ。もちろんTfLは公共機関であり、運賃値上げ(それでなくてもロンドンの地下鉄は高いのだが)以外の方法を模索したが、オペレーター側はコスト負担が大きすぎると踏み、プロジェクトをつぶすことにしたのだ。
今回進展したのは無線LANによるカバーだ。TfLは3月、Virgin Media(Virgin GroupのISP事業者)との提携を発表、プラットホームを含む駅構内で無線LANを利用できるよう、Virgin MediaがIEEE802.11gのアクセスポイントを設置することになった。うれしいことに、五輪期間中はTfLの列車運行情報などについては無料でアクセスできるようにするという。
TfL以外のサービスへのアクセスは有料となり、五輪が終了するとTfLのサービスも有料となる模様(Virgin Mediaのユーザーは無料)。ロンドン地下鉄には200以上の駅があるが、まずは約80の駅でローンチし、年内に主要駅120駅に拡大する計画だ。
ロンドン地下鉄は1日約300万人が利用する重要なインフラでもある。運賃が高い上に、列車の遅れなど運行状態がよくないことでも知られる。五輪で予想される大混雑を避けるために、これらサービスを提供して改善を図る狙いもあるようだ(ロンドン五輪は車のない“カーフリー五輪”を目指している)。
ロンドン市は五輪に向けさまざまな準備を進めているが、地下鉄でもキャパ増などの対策を講じている。地元企業に向けては、従業員の通勤時間をずらしたり、自宅勤務を推奨するなどの協力をよびかけ、期間中2割程度の利用減を目指しているとのことだ。

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