いまだ立ち上がりの遅いPCI Express 3.0
ロードマップに話を戻そう。Revision 1.0は2002年7月にリリースされたが、これにはいくつか致命的な問題があり、「準拠して作るとそもそも通信ができない」という代物だった。これを修正したのが、翌2003年4月に登場した「Revision 1.0a」である。2005年には、いくつかのECN(Engineering Change Notice、技術変更通知)を含めた「Revision 1.1」が登場した。
2006年3月には大きなアップデートとして、2.5GT/秒と5GT/秒の転送速度に対応した「Revision 2.0」が登場した。続く2009年3月に登場した「Revision 2.1」は、ECNとしてグラフィックスカードをGPGPU的に利用するといった「アクセラレーター」を利用する際の、性能向上につながるメカニズムをオプション扱いで追加するという大きな仕様拡張が行なわれている。当初この仕様拡張は、後述する仮想化関係のように別仕様になるという話だったが、最終的にBase Specificationに含まれることになった。
PCI Express最新のBase Specificationは、2010年11月にリリースされた「Revision 3.0」である。ここではついに信号速度が8GT/秒まで引き上げられている。しかしRevision 3.0では当初、10GT/秒を狙っていた。5GT/秒の2倍という単純な発想だが、実際に10GT/秒を狙おうとすると信号補正や基板実装の際にかなり困難をともなう(実現は可能だが高くつく)と判断された。そこで信号速度を1.6倍の8GT/秒に落としたわけだ。
それだけでは性能が1.6倍にしかならないので、Revision 1.x~2.xで利用されてきた8b/10bエンコードを放棄して、代わりに128b/130bエンコードを採用した。こちらの場合、8GT/秒での実際の転送速度は8×(128÷130)≒7.88Gbpsとなり、実質4GbpsだったRevision 2.xのほぼ2倍の帯域を利用できる計算になる。
もっともこの8GT/秒のPHYは、エンコード方法を変えたことためそのままではRevision 1.x/2.xとの互換性が保てなくなった。そのためRevision 3.0準拠のデバイスは、図5のように8GT/秒対応の物理層と2.5、5GT/秒対応の物理層の両方を内蔵し、実際の通信に応じて切り替えることが必須とされている。
ところがこのRevision 3.0は、採用製品の立ち上がりがかつてないほど遅い。Revision 1.0/2.0の時は、仕様策定のだいぶ前からインテルが検証用プラットフォームをメンバー企業に提供していた。またグラフィックスカードベンダーも、試作品ながら早いタイミングでPCI Express対応GPUをリリースするなどしてフィールドテストを進めたために、仕様策定とほぼ同じタイミングで製品投入が始まっていた。
しかしRevision 3.0については、製品をそのまま検証用に使うという方針をインテルが打ち出した。その結果、次世代CPU「IvyBridge」のサンプルが出回るまでは、検証用プラットフォームが充実しないという状況になってしまい、現時点では最短でも2012年以降の普及になりそうだ。
面白いのは、むしろPCI Expressスイッチを製造しているベンダーの方が、Revision 3.0に熱心なことだ。そのためこれらの製品が先行して市場投入されつつあるのだが、スイッチだけあってもホスト側(チップセット)やデバイスが対応しないと意味がない。このホストやデバイスの対応が最短で2012年なので、本格普及はヘタをすると2013年になりそうである。
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