ソニーの統合型AR技術「SmartAR」は、文字通りスマートフォンで動かせるAR(拡張現実)技術だ。「空間認識」「高速追従」「3D空間AR」「ARインタラクション」という4つの技術を見事に組み合わせ、発表会のデモで参加者の度肝を抜いた(発表会記事)。
ARと言われて思い出すのは、ゲーム「ラブプラス」シリーズのキャンペーン企画「熱海ラブプラス現象(まつり)」。熱海市内の観光スポットに置かれた特設ARマーカーをiPhoneアプリで認識させると、ARとしてゲームの「カノジョ」が表示されるというものだ(詳しくはレポート記事をどうぞ)。ただ、そのときはARマーカーが必要だった。だが今回のSmartARはマーカーを使わない。写真やパネル、あるいはワンピースなどの物体でも認識する。さらに一度CGが出てくると、認識対象がカメラから見切れても、そのまま表示し続けてくれる。
(c) Konami Digital Entertainment
そんなSmartARには、同社のロボット「QRIO」の認識技術が使われている。まさにソニーの叡智の結晶だ。そこで気になるのは、「ARとしてどんな技術革新があったのか?」ということ。さっそくソニー開発陣にインタビューしたところ、意外な答えが返ってきた。
新技術よりも「使える形」
それが一番重要だった
―― まず、SmartARのどこが新しいのかを教えてください。
芦ヶ原 3つの技術が1つに統合されているというのが新しいところかなと思います。たとえば、物体を認識しながら環境を3Dで認識したり。
福地 実際、マーカーレス方式のARはこれまでにもありました。モバイルできっちり動くものはあまりなかったのですが、それでも“まあそれなりに速いんじゃないか”というくらいのささいな違いでしたから。
―― とすると、これは「ソニー開発の新しいAR技術」というわけではない?
福地 「ARを発明した!」とかそういうことではなくて、これまで開発してきた技術を、ユーザーが「使える」と思える形にしたんです。たまたまこのタイミングで、良いARと、良い物体認識と、良いデバイスがあった。
芦ヶ原 だから「統合型AR」なんですよね。
―― なるほど。するとインターフェースへの目線が大きかったわけですか。
芦ヶ原 「気持ちよく使ってもらうためにはどうすればいいか?」ということでしたね。たとえば(ARで)せっかく出したCGがどんどん消えちゃうってイヤじゃないですか。でも、環境認識と合わせれば消えないようにできる。
福地 開発した後に初めて気づいたんですが、今までのARは「制約」がたくさんあったんです。SmartARはその制約をひとつずつ外していたんですね。「対象(ARマーカー)が白黒じゃなきゃいけない」「パソコンじゃなきゃ使えない」「ずっと同じところを撮らなきゃいけない」「カメラをかざしっぱなしにしなきゃいけない」――そういったARの制約をひとつずつ外していったことで、使いやすいものになった。
―― 開発中に気づいていなかったというのが不思議です。
芦ヶ原 これまでのARを実際に使っているときは感じなかったんですけど、いざ解放されてみると「あれって制約だったんだ」と気づかされるんですよ。「ARってなんか使いづらいよね」という感覚はそういうところにあったんじゃないかと思います。
福地 みんなどこかで問題意識としては持っていたんですよね。いざデモをやったとき、「なんでみんなこんなに喜んでくれたるんだろう?」と考えたら、ハッと制約の存在に気づいたんです。それが「未来きたー!」という感覚につながってるんじゃないかと。
―― なるほど。すると、意地悪ですが限界が知りたくなってきます。たとえば高速追従性に関して言えば、高速なF1カーを追従してARを出したりもできますか?
福地 これは相対的にどれだけ速いかという話なので、シャッター速度が速ければ大丈夫です。ボケボケになってしまうとまずいですが、そうでなければ大丈夫です。ただ、フレームレートはある程度高くなければいけません。最初のフレームに映っていた対象が次のフレームで完全に消えていたら認識できないので。
―― 今は30fpsですよね? それは将来もっと速くなるんでしょうか。
福地 スピードに関しては、個人的には「(認識対象を)落としても、(CGが)付いていったら勝ちだな」と思っていたところがあったんですね。で、いざやってみたら、パネル(認識対象)を落としても大丈夫だったので「やったな」と(笑)。
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