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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第22回

アニメ!アニメ!数土氏が語る「海外市場壊滅の真相」(1)

京アニやシャフトが売ってるのは映像だけじゃない

2011年04月15日 20時00分更新

文● まつもとあつし

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「Crunchyrollはその出自から、無許諾配信を厳重に取り締まることができない」(数土氏)

ネット配信はアニメの海外展開を救えるのか?

―― 映像そのものをおカネに換えるという意味では、海外でのパッケージ販売はもはや成立しないということですね。だからこそ昨今はネット配信に期待が集まっているわけですが、課題はないのでしょうか?

数土 「ネット配信に期待がかかるなか、注目を集めたのは、、当初は違法ファンサブでありながら、日本のアニメ企業とも提携して公式配信を始めたCrunchyrollでした。しかし、明らかに彼らのビジネスは無許諾配信に阻まれ、行き詰まりを見せています。

 個人的には、Crunchyrollは裁判を起こしてでも他の無許諾配信を止めるべきだと考えています。ただ、そもそも彼らの出自はファンサブなので、『(かつての仲間やそのユーザーから)嫌われたくない』という強い意識も働いているはずです」

―― 日本動画協会の増田氏からは、「ディズニー並みの資本力がなければ訴訟は難しい」というコメントもありました。となれば、アニメ企業同士はもちろんですが、出版社やテレビ局、そして増田氏が期待を寄せるIT企業などとの合従連衡が不可欠にも思えます。

数土 「リーガルアクションを起こすのであれば、団結するよりほかないでしょうね。おカネや手間も掛かるので、国からのサポートももちろん必要だと思います。

数土氏にはパッケージ販売からネット配信まで、海外(主に北米)での厳しい実情を語っていただいた

 ただ、加えて指摘しておくならば、全部を潰しに掛かる必要はありません。違法ファンサブの代表的なところに対して数回アクションを起こせば、それは“抑止力”になります。

 この考えには反論が出てくるかもしれませんが、日本は映画館における盗撮行為やアップロード行為が諸外国に比べてかなり少ないんですね。それは何故か? やはり取り締まりが利いているんです。抑止力になっている。

 翻って、いま海外でどんな空気になっているかと言えば、『日本のアニメは何をやっても許される』。……そういう意識が蔓延しています。

 これに対して『度を越せばやはり追及される』という例を示す必要がある。もちろんゼロにはなりませんが、抑止があるのとないのとでは大違いです」

―― 思い出すのは、アニメ『フラクタル』製作委員会が海外パートナーのファニメーションに対して“違法アップロードの一掃”を求め、予定していた同時配信を停止した一件です(「フラクタル」北米同時配信 製作委員会停止を要請 海賊版問題で:アニメ!アニメ!)。

数土 「やはり“一掃”というのは現実的ではなかったかなと思いますね。いま申し上げたように、代表的なサイトに警告するだけでも効果はあったと思います。

 2011年1月に東映アニメーションが『ONE PIECE』を違法ダウンロードし、Bit Torrentで共有したとして、ユーザー1337人を訴えています(米国でワンピース違法配信で1337名を訴え 日本アニメ初:アニメ!アニメ!)。

 法律的にはもちろん根拠があり、効果もそれなりにあるのでしょうが、やはり抑止効果や、ユーザーに明確なメッセージを伝えるためにも、最初に叩くべきは発信元、あるいはそういったサイトを網羅しているリンク集サイトではなかったでしょうか?」

―― おそらく権利元もどのようなアクションを起こせば効果があるのか試行錯誤を続けているところだとは思います。

フル3Dアニメは日本アニメを駆逐するのか?

―― 海外、特に北米ではフル3Dアニメがヒットの中心となっています。日本の2Dアニメが海外で受容されにくくなっていくのではないか、という点についてはいかがでしょうか?

2001~2010年 BOX OFFICEベスト10入りアニメーション
年度 順位 タイトル 制作/配給
2001年 2位 シュレック Dreamworks
―― 3位 モンスターズ・インク Pixar/Disney
2002年 9位 アイスエイジ Fox
2003年 2位 ファインディング・ニモ Pixar/Disney
2004年 1位 シュレック2 Dreamworks
―― 5位 ミスター・インクレディブル Pixar/Disney
―― 10位 ポーラ・エキスプレス Warner
2005年 9位 マダガスカル Dreamworks
2006年 3位 カーズ Pixar/Disney
―― 7位 ハッピーフィート Warner
2007年 2位 シュレック3 Dreamworks
2008年 5位 ウォーリー Pixar/Disney
―― 6位 カンフーパンダ Dreamworks
―― 8位 マダガスカル2 Dreamworks
―― 10位 ホートン不思議な世界のダレダーレ Fox
2009年 5位 カールじいさんの空飛ぶ家 Pixar/Disney
2010年 1位 トイ・ストーリー3 Pixar/Disney
―― 7位 怪盗グルーの月泥棒 Universal
―― 8位 シュレック・フォーエバー Dreamworks
―― 9位 ヒックとドラゴン Dreamworks
出典:BOX OFFICE MOJO/アニメ産業レポート2010(一部、編集部調べ)

数土 「うーん、どうなんでしょう。わたしはそこまでは考えていません。確かに3Dアニメが増えることで、相対的に2Dのシェアが小さくなる、ということはあるとは思います。しかし、結局はフル3Dも表現の1つの手段に過ぎません。

 ストップモーションのクレイアニメーションがなくなりつつあるかと言えば、そんなことはありません。いろいろな映像表現があって良いと思いますし、1つに収斂していくこともないのでは。

 ただ、日本に関して言えば、手描きの2Dのアニメーションは減っていくはずです。そもそも描ける人が減っていますし、次第に3Dに比べてコストが掛かるようになっていくはずです。

 かと言って、すべてがPixarのようなフル3Dに向かうのではなく、たとえばサンライズ荻窪スタジオ(スチームボーイ、FREEDOMなどの制作を担当)が手掛けているような、3Dを用いながら、できる限りセルアニメーションに見えるようにする手法が中心になっていくはずです。日本はそこで強みを発揮すべきです」

―― 2Dと3Dのハイブリッドのようなスタイルですね。

数土 「2Dの部分は手で紙に描くというスタイルから、いきなりデジタルで制作するという形に移行すると予想しています。

 国の動きで興味深いのは、数年前まで経済産業省は手描きアニメーターの育成事業を行なっていましたが、現在ではCGクリエイター育成にその軸足を移しています。一方、現在手描きアニメーターを支援しているのは文化庁なんですね。CGは産業、手描きアニメは文化という位置付けが明確に現われていると思います。

 ですから現在は、手描きの技法をいかにCGに取り込むか、CGに伝承されている過程ですね」

 ニュースサイト「アニメ!アニメ!」がスタートした2004年は、アニメがクールジャパンの申し子のように持ち上げられていた時期だ。それからおよそ7年。日々その変化を取材し、記事にしてきた数土氏は、2011年の現状を厳しく分析する。インタビュー後編では、果たして国内アニメ産業の再生はあり得るのか、あるとすればどのような形で成し遂げられるべきなのか、その展望を伺う。

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