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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第21回

アニメのビジネスモデルは「機能していない」

元マッドハウス増田氏が指摘、アニメ海外進出を阻む2つの危機

2011年03月22日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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2つの危機が同時に進行している

―― ここまでのお話を整理しますと、「海外でも人気が高いのに海賊版を取り締まれずマネタイズできていない」「日本が得意とする2Dアニメから、フル3Dアニメに海外のトレンドは移りつつある」という2つの危機があるということになりますね。

増田 アニメだけでなく、マンガの需要も徐々に下がっています。実写作品は元々海外には出ていませんから、トータルで考えても「コンテンツ立国」という看板はかなり厳しくなっている、というのが素直な認識ですね。

―― なんとか、2Dアニメが海外のコアなファンの人気を集めているうちに、ビジネスモデルを打ち立てたいところです。

増田 東映アニメーションさんをはじめ、個別には様々なチャレンジがありますが、業界全体としては動けていないのが現状です。

 先ほど「テレビはやはり重要」と話しましたが、本来は海外へサイマル配信するのが最も効果的です。

 一部そういった取り組みも出てきてはいますが、テレビ局へギリギリに納品している現状では、なかなかタイムラグのない字幕付き配信は実現しません。しかし、その気になれば、できなくはないはずです。

 納期の問題に加えて、海外各国に配信するシステムも必要になります。これも1社だけの投資ではどうにもなりません。

 さらに、放送コードの問題があります。実際、日本のアニメ作品のほとんどは、そのままの内容では海外で放送できないのです。世界的に、アニメは子どもが見るものという常識があるので、日本人が思っているよりも規制が厳しいのです。また、その修正にも時間がかかる。

 基本的に海外での配信はその地区でライセンスを持つディストリビューターの意思に委ねられています。彼らとの同意が取れないとサイマルはやはり実現しないのです。

日本アニメの海外展開を示した世界地図(日本動画協会調べ)

―― とはいえ、従来の1年から2年遅れの展開では、もうコアファンからすれば旬は過ぎているということになりませんか?

増田 Apple TVのような新しいネットベースのプラットフォームができたわけですから、本来であればそれに対応した新しいビジネスモデルを作らなければなりません。私は日本のマンガやアニメの持つ「ストーリー」のすばらしさは、これからも海外に通用すると信じていますが、ビジネスモデルが失われていることが大問題なのです。

 ビジネスが成立しなければ、アニメの制作自体が難しくなっていきます。

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