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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第21回

アニメのビジネスモデルは「機能していない」

元マッドハウス増田氏が指摘、アニメ海外進出を阻む2つの危機

2011年03月22日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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新しいビジネスモデルを誰がどう作るのか?

増田 問題は、やはり先ほどの企業体力の話になるのでは。ハリウッドメジャーであれば、海外市場も自分たちのコントロール下に置けるほどの体力があります。

 しかし、海外のディストリビューターに頼らざるを得ない日本のプレイヤーはそういうわけにいかない。海外での事業が当たり前になっている時代にそういう状況では、新しいビジネスモデルを作るのは非常に難しい。

 それならと思って世界への直接配信事業に進出しようと思っても、ライセンス済みの過去の作品をいきなりディストリビューターから引きはがすこともできません。一歩間違えると、まるっきり無駄になるプラットフォームとなってしまいますから――資本・先見性・ビジネスの構築力、そして度胸がないと

 2006年をピークとする海外での日本アニメブームは、振り返ると「韓流ブーム」に近いものがあったと思います。アニメのポケモンはゲームと連動して世界に出て行くことができた。そして、それを支えていたのは任天堂という強力なプラットフォーム・リーダーだったということですね。当時、海外メジャーが国内のアニメ関連企業に興味を示していましたが、要は第二、第三のポケモンを求めていたわけです。

※編註 この件とは直接関係しないが、例えば東映アニメーションは2005年にフランスでそれまでのディストリビューターとの契約解除を巡り訴訟を受け、その後2008年に約3億700万円を支払うことで和解している(関連サイト)

ニコ動を見ていると「イカ天」を思い出す
ドワンゴはアミューズになれるか?

―― 経済の規模、そして回収手段を考えればアニメ単体ではなく、ゲームなどと連携しての海外展開が必要ということになりますね。その場合、どういったプレイヤーが想定されますか?

増田 既存の業界からというよりも、わたしはIT系の企業から出てきてほしいですね。それこそ、ニコニコ動画のように新たな価値を創造しているところにとても期待しています。

 私はニコ動を見ていると、1980年代に芸能プロダクションのアミューズが生み出した「イカ天」を思い出すんですよ。アマチュアバンドの活躍の場を提供し、そこからメジャーデビューするバンドが次々と生まれ、バンドブームが巻き起こったわけです。

 ただ、アミューズの場合は彼ら自身のビジネスと密接に紐付いていましたが、ニコニコ動画の場合は、そうではないのが少し不思議なところです。

ライブ戦略の一環である「ニコニコミュージカル」には、ニコニコ動画出身者の出演も予定されている

―― ニワンゴの親会社であるドワンゴは音楽事業も手がけていますし、この連載でも取り上げた「ブラック★ロックシューター」など一部の作品については出資も行なっていますが確かに関連度は低いですね。ただ、筆頭株主がエイベックス・グループ・ホールディングスですから、今後ニコ動出身者がエイベックスからデビューする可能性はありますね。

主要出版社すべてが合併してもコンテンツの海外展開は困難

増田 私自身、コンテンツ業界にずっと居ましたから、やはりコンテンツそのものでビジネスをしたい、収益を上げたいという思いが強いんです(笑) IT企業そのものがコンテンツビジネスを手がけなくても、そういった会社を買収したり、新たに専門の会社を興したりといった方法は、今でも取れるのではないかと思います。

 これまでのお話でも明らかになったように、これからのコンテンツビジネスは、コンテンツとファイナンス、そしてITが三位一体となって展開する必要があります。ハリウッドはそれができている。

 今、iPhoneで注目を浴びているスティーブ・ジョブズですが、わたしは彼がAppleを退任していたときに立ち上げたピクサーで、それまでのITビジネスの知見に加えて、相当コンテンツビジネスについて学んだことが、iTunesやApple TVなどの展開に生きているとみています。

 レコード会社や映画会社のようなコンテンツホルダーとどう交渉するか、そのツボを押えることができているのは、そちら側に一度身を置いたからではないかと。

―― 増田さんが仰る「三位一体」、そしてそれを実現するための資本の力という観点からいえば、業界内外に拘らず、企業統合が進められるべきということになりそうです。

増田 それも1つの選択肢だと思います。事業単体、つまり製作委員会ではそこまでの大きな意思決定や、ドラスティックな動きは取りづらいですから。アニメ関連企業はもちろんのこと、たとえ国内の主要出版社が合併してひとつになったとしても、ソニーグループや任天堂1社の売上規模には及びません。

 日本には卓越したストーリー創造という絶対的な優位点がある――しかし、それをマネタイズするための、規模の経済がなければ海外で本気でビジネスはできないということを改めて強調しておきたいと思います。

著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。この連載をまとめた新書『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書)も好評発売中。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto

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