足し算にならない、事業買収
算数の答えとは異なり、事業買収の成果が、「1+1=2」にならないのは、よくあることだ。
日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、日本ヒューレット・パッカードに買収されたコンパックの立場から、同社入りをし、日本ヒューレット・パッカード社長に就任した経緯がある。
「結果は、1+1が、1.7ぐらいにしかならなかった」と、この時の買収成果を振り返る。
ここでも、レノボ・IBMのPC事業買収と同様に完全子会社化という手段が取られており、現在のように、世界ナンバーワンシェアを獲得するという成果につなげるまでに、5年以上という多くの時間を要した。
実は、今回のレノボとNECの合弁に近い動きが、近年、富士通のPC事業で行われている。
富士通は、独シーメンスのPCおよびPCサーバー事業会社と合弁会社を設立。当初は50%対50%という折半で富士通シーメンス・コンピューターズを1999年に設立した。この時、シーメンスはドイツ市場で高いシェアを維持しており、ドイツにおけるシーメンスのPC事業の位置づけは、現在の日本におけるNECと同じだ。
その後、10年間での契約更新を前提とし、両社は折半出資のまま合弁事業を継続してきたが、10年目を迎えた2009年に富士通がこれを100%子会社化し、現在は富士通テクノロジーソリューションズとなっている。
完全買収でなければモチベーションは変わらない?
富士通が100%子会社化した背景には、いくつかの理由がある。
それぞれに50%という出資比率であったため、富士通が欧州市場でPC事業を拡大しようとした際に意思決定に時間がかかり、スピードが求められるPC事業において競争力を高めることができにくかったという要因がある。
また、その一方で、この出資比率のなかでも、シーメンス採用の社員のモチベーションを維持することが難しかったという背景も見逃せない。
実際、ここ数年、富士通はPCの年間出荷台数を減少させており、その理由に欧州市場での事業展開の遅れが指摘されている。
富士通のPC事業において、富士通テクノロジーソリューションズの再構築は最優先課題。欧州市場での事業拡大が、富士通のPC事業拡大に直結するのは明らかだ。
レノボやNECが異口同音に語るように、「完全買収ではなく、合弁会社として存続させれば、モチベーションを維持でき、社員の離反もない」というのは、富士通とシーメンスの関係をみても肯定しにくいのは明らかだ。
そして、この経験はNEC自らも通ってきた道でもある。
NECは、1996年に米パッカードベルと合弁会社を設立。これにより、一時的にPC市場において、世界トップシェアを獲得した経験を持つ。
当初、NECは、パッカードベルの既存の事業体制を維持させようパッカードベルNECとして合弁会社の形をとり、、日本においても、パッカードベルNECジャパンという別会社を作り、事業を推進する体制を整えたものの、1998年には完全子会社化。その後は、成果をあげるどころか、統合にも失敗し、同社を手放す結果となっている。
当時、パッカードベルとの統合において、日本でのパッカードベル事業を推進する立場にいた人物が、NECパーソナルプロダクツの要職を務めている現状を考えれば、合弁の難しさは自ら熟知しているはずである。
こうしてみると、NECとレノボは、それぞれに独立した事業推進体制を選択したというものの、これが将来に渡って、NECのPC事業が続くのとは同義語とはいえない。
どこかひとつ歯車が狂えば、両者が思うような関係を維持することが難しくなるのは明らかだ。
それは、レノボとIBM、ヒューレット・パッカードとコンパック、富士通とシーメンス、そして、NECとパッカードベルという先例をみても、稀なケースではない。
その点で、レノボによる100%子会社化の完全否定は、いまの時点では納得できるものの、将来に渡って担保されたものではないのは事実である。
レノボによる完全子会社化の条項が盛り込まれている限り、経済環境の変化、市場環境の変化、それぞれの企業の置かれた状況の変化によって、完全子会社化の可能性はいつまでも捨てきれない。
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