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漫画サイト「Jコミ」仕分け座談会レポート

都条例は「かつてない脅威」――漫画関係者が激白

2010年12月22日 12時00分更新

文● まつもとあつし

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「仕分け」議論で見えた課題

ホワイトボードに貼り出された、日本の漫画雑誌一覧。廃刊・休刊を含めるとその数は900点を超える

 後半は、雑誌のジャンルごとに今の段階でJコミで扱えるか、プレミアムシステムなどが整備されるまで保留とするかが、テクニカルライターの山口真弘氏の司会進行のもとで議論された。Jコミでは今後、作者または読者から寄せられた絶版作品に広告を付けて配信を行なう。実質5人で運営しているJコミにとって、大量にアップロードされるであろう作品をどう確認していくのか、単純にリソースの問題もある。

 Ustream配信中には、ユーザーから「マンガに詳しい有志を募っては」というコメントも寄せられたが、そのスキルをどう見極めるのか、また万が一トラブルとなったときに責任をどのように負えるのかなど、課題は多い。

 難しいのは、単純に成年マークを基準にできないことだ。

 成年マークが制定される前の作品も膨大にあり、また今回の都条例が象徴しているように、その基準も時代によって様々だからだ。また、女性向けにはほとんど成年マークがつくことはないが、ネット配信では峯村氏が述べたような「配慮」が必要となってくる。Wikipediaの「日本の漫画雑誌」一覧を基に作成した900以上のリストを元に、出演者は頭を悩ませた。

3巻だけが成人指定を受けている作品の一例「さくらの唄」。コミック装丁デザイナー・杏東氏が会場に持参した

 「文化遺産としてすべての絶版漫画を収集し、作家に収益を還元しながら、後世に遺していきたい」

 そんな赤松氏の思いと、表現規制の問題(サーバーが海外にあるとは言え、成人認証を経ないまま成年コミックを配信することはしたくない)は、その膨大な作品を前にして、こうだという方向性をなかなか見出せなかった。


課題は山積み――
成年指定だけではない「アーカイヴ」の難しさ

 さらに、少年誌によく見られる「キャラクター商品とのタイアップ作品」は、いわゆる「原作つき」の漫画同様、それぞれの権利者にも属していることが多い。たとえば有名人が登場する作品は、その本人(事務所)への確認が必要だ。表紙デザインなど原作以外のコンテンツが印税方式で制作されている作品には配分が発生し、歌詞が登場する作品はJASRACの権利処理が必要となる。

 また、ひとつの作品が掲載誌の休刊を受けて、他の雑誌に移籍することもある。そこで作風もガラリと変わり、対象年齢が大きく変わるケースも多い……などなど、そのほかにもさまざまな要因があり、一律に区分けをするのが難しかった。

 今後は、今回の議論とネットの意見を基に、まずは「ホワイトリスト」(Jコミで扱う対象となる雑誌のリスト)を提示する予定とのこと。座談会の最中に「涙を飲んで」保留扱いとした雑誌(ヤング誌全般)なども、あくまで現時点での扱いであり、プレミアムサービス開始時には扱いたいと意欲を示した。商業誌に掲載された作品は最終的にはすべて扱いたい、というのが赤松氏の野望だ。

 最後に1点、重要なことを。

 参加者一同、気付いて一瞬あっけにとられてしまったのが、前半で都条例の問題点として指摘しながら、Jコミの「仕分け」でも、議論の中身としては同じような流れをたどってしまうということだ。いざ少人数で運営し、配信する側の立場に近づくと、「グレーなものはまず保留」という判断になってしまう。

 だが、その立場と方向は完全に「逆」だ。都条例はマンガ、広く言えばコンテンツの振興という目的はないが、Jコミには作者(クリエイター)を支援しようという前提がある。作業のプロセスは似ていても、もたらされる結果は必ず逆のものになる。そう期待しつつ、今後もJコミを見守っていきたいと思う。



著者紹介――まつもとあつし

 ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。12月10日にはアスキー新書より「生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ」が発売。公式サイト 松本淳PM事務所[ampm]

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