11月26日にスタートし、絶版マンガの広告付き無料配信で話題を集めた「Jコミ」(関連記事)。赤松健氏の「ラブひな」は200万回以上ダウンロードされ、公表されているクリック率を単純に当てはめると、広告も18万回以上クリックされていることになる。
この1ヵ月間のトライアルの後、Jコミはさらに3作品を追加してβ2バージョンをスタートする予定だ。だが、膨大な絶版作品の中からどんな作品を今後扱えば良いのか、12月15日に可決された都条例(改正青少年健全育成条例)がどんな影響を与えるのか、実は赤松氏には悩みもあった。
12月17日、赤松氏の呼びかけにより、都内某所で「Jコミ仕分け会議」が開催された。会議はUstreamでも中継され、前半が可決された都条例の漫画家およびJコミへの影響について、後半はJコミでどんな作品を今後扱っていくかを議論した。
筆者はこの会議の企画に携わり、前半部分の司会を担当、後半は主にUstreamのコメントを紹介する役割で参加した。当日の模様をお伝えしつつ、その議論やコメントの中から見えてきた、Jコミや日本のマンガの未来と課題を整理したいと思う(実際のUstream放送の内容とは、表現・順序を一部読みやすいよう調整したことを予めお断りしておきたい)。
■当日の参加者(順不同・敬称略)
赤松健(漫画家、「Jコミ」代表)・小梅けいと(漫画家)・杏東ぢーな(漫画デザイナー)・山口真弘(テクニカルライター、後半司会)・境真良(経済産業省職員、ここでは私人として参加)・浅倉卓司(ブロガー)・峯村大作(松文館編集者)・堀田純司(「AiR」編集者)・まつもとあつし(司会)
改正都条例は「うまい」?
―― 今回の改正都条例を受けて、まずは皆さんがどう感じているかをお伺いしたいのですが。
赤松 禁止されることで、逆に生まれる工夫や構図、そして考える面白さが出てくるというのも事実です。だから僕は、規制にはいつも全面的に反対ってわけじゃないんです。
あと、今回の条例はある意味「うまい」というか、狡猾だなぁと思ってるんですよ。まず、近親相姦モノとか、漫画のジャンルの中身に相当詳しくないと、自信がなくて条文には盛り込みづらいですよね。相当なマニアが条文作りに参加していることは間違いない。
そしてよく考えると、現実社会の中でダメなことを、マンガやアニメの中で描くことを禁止するというのは、明らかに論理が破綻してるんです。でも、一見すると「たしかにそういった行為は許されない。だから漫画でも同じく許されないだろうな」と思ってしまう。これは非常にうまい、と感じました。
そして、採決までの時間を短く設定して、市民によく考えさせない。さらに今回は登場人物の年齢制限にこだわらず、漫画やアニメのストーリー(ジャンル)にまで踏み込んできたという点でも画期的。漫画家にとっては、かつてない脅威になっていると思います。
境 今回の改正はある意味うますぎて、官僚っぽくない印象を受けました。
今回のひとつ前の案、「非実在青少年」なんて書き方の方が、むしろ論理が破綻していて官僚造語っぽかった(笑)。(書店に)ゾーニングはあって良いと思うが、基準について自主規制を求めるのではなく、一歩踏み込んで公権力側が直接規範を示したのは違和感があります。
市場の中で変容していけるもの、対話によって解決できるはずのものがどうして条例に入ってくるのか、理解に苦しみます。商業マンガの場合、作者と編集者が検討を重ねて、この作品はあの棚に行くだろう、という狙いを定めて作り上げていくわけですよ。
それが、別の力によって突然「こっちに置け」と言われる恐怖感が、今後生まれてくる。そもそも今回の規制は、「置き方が悪い」「描写や表現が悪い」がごちゃ混ぜになってしまっているのも問題です。
どちらも映倫やビデ倫の審査を通っているのに、実写は対象外でアニメだけが対象になるというのもおかしいと思いますね。
改善の必要があるのはもちろんですが、これをどう運用していくのかも気になります。事前に例を挙げて説明をする(「コンメンタール」と呼ばれる法的解説書を提示すること)とか、分類の指導をする前に、事前の警告等をするのかとか――そういった点ですね。
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