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WWDC 2010 基調講演は「予想以上にiPhone一色」

2010年06月09日 12時00分更新

文● 千種菊理

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【One More Thing】FaceTime

最後にジョブズから「One More Thing」の言葉が飛び出す

聴衆が期待する中、壇上のソファーにゆっくり腰掛けた ジョブズはiPhone取り出し、ジョナサン・アイブ(インダストリアルデザイングループ担当上級副社長)にテレビ電話をかけた。アップルのメッセンジャー「iChat 4」でサポートしたのと同じビデオチャットがiPhone 4でも搭載されたのだ

「FaceTime」と名付けられたこの機能は、iPhone 4同士なら特にセットアップなしで、無線LANにつないで利用可能。iPhone 4の前面/背面にある両方のカメラを使って、自分や風景を映し出せる

 FaceTime の最大のポイントは、オープンテクノロジーだけで構成されているということだ。FaceTimeを構成するプロトコルは、「SRTP」などすべて既存の公開されたプロトコルだけ。WindowsやAndroid などほかの環境でも、デバイスの性能が許せば実装可能だ。

 少なくとも2010年中は無線LAN経由で使うことになる。3Gでのビデオチャットは、帯域およびキャリアの都合から厳しいということだろう。しかし、「2010年は」と年限を切った事から、きたる3.9Gの広帯域時代になって、キャリアを説得できれば、携帯網でのFaceTimeも決して夢物語ではない。

iPhone 4は24日に世界6ヵ国で発売を開始する。その中には日本も含まれている。時差の関係もあり、世界でいち早くiPhone 4を手にすることができるのは日本だ

その後、7月には合計18ヵ国、7月には 24ヵ国、8月に40ヵ国での提供が始まり、合計で88ヵ国で販売される

 iPhone 4について大半の時間を割いて発表する一方、それ以外のiPodやMacについては売上も含めて何も語られなかった。

 もっとも、Snow Leopardの発売からMac OS X の環境は安定しており、特にトピックがないのも事実だ。Snow Leopard での開発系のドキュメントも順次提供されており、アドビのCreative Studio製品など64bit対応も着々と進んでいる。少なくとも今年は「Macはそのままで」ということなのだろう。ただ、まったくMacがアップデートがなかったわけではなく、基調講演後に「Safari 5」がリリースされた(関連記事)。


ハプニング発生! 無線LANの帯域が……

 今回はハプニングに見舞われた基調講演だった。

2番目の高精細度液晶をデモした際、iPhone 4とiPhone 3GSでSafariを表示して違いを見せようとしたが、iPhone 4側が無線LANから切り離されて、表示に失敗した。近年、基調講演のデモでの完全な失敗は珍しいぐらいだ。

iPhone 4が無線LANから切り離されてしまい、Safariのウェブページが表示されない

 話術で場を和ませるジョブズだが、6番目のiOSのときに、「700を越えるデバイスが、無線LANの帯域を埋め尽くしている」と説明して、「みんなに無線LANの帯域を明け渡してデモを控えるか、驚愕の(アメージングな)デモを見るために無線LAN接続をあきらめるか、どちらかを選択してくれ」と問いかける。朝の廊下での出来事を考えると、無線LANの混雑が原因というのは間違いないだろう。

 すると圧倒的な支持のもとで、各自がiPadやMacをスリープにして無線LANアクセスポイントへの接続を止めた。筆者ももちろんMacBookの無線LAN機能(AirMac)を無効にしたのだが、メモを取ろうと電源は付けていたので周囲から非難の視線が飛んでくる。あわてて「Already stopped」と説明して回る羽目になった。

ジョブズが呼びかけると、会場にいた人々は無線LANアクセスポイントから抜け始める

 ジョブズは、その後のデモでも繰り返し「無線LANはオフにしましたか?」と笑って問いかけていた。今回、一番の笑いの取りどころになってしまったようだ。

 もっとも、早いうちにトラブルが起こったのは幸いかも知れない。もしもとっておきの見せ場であった、「One More Thing」のFaceTimeのデモのときにトラブルが起こってしまうと目も当てられない事態になったであろう。早期に発生し、聴衆が自主的な無線 LANの利用停止を行ったのは不幸中の幸い。あまりの見事さに、聴衆の中からはこのハプニングすらも「ひょっとして仕組まれた?」という疑念さえ上がったぐらいだ。

 このハプニングは、同時に無線LANにおける帯域確保の難しさを物語っている。IEEE 802.11nは広帯域の一方、複数のチャネルを利用するため干渉しやすい。通常のオフィス程度の利用なら問題なくても、こうしたイベントで人が密集する場合は思うようにコントロールが効かない。2000年に無線LANソリューションの「AirPort」(日本ではAirMac) を発売して以来、毎年会場の無線LANを改善し続けてきたアップルですら、今回のように手こずる状況だ。

 横浜商科大学のように全学でiPhone3GSを採用し、キャンパス一帯で無線LANを有効にする場合にはより注意深い検証が必要になるだろう。そうしたノウハウの有無が、システムインテグレーターの力の差になりかねないということだ。


「Apple is not only techorogly company.」

 基調講演の終わりにて、ジョブズはこう述べた。「アップルはテクノロジーだけの会社ではない」と。

アップルはテクノロジーだけの会社ではない

 ここまで発表された製品やその技術は非常に高度だが、アップルだけが実現できるものではない。他社もこれだけの技術があり、その中には Androidのように無償提供されているもの、FaceTimeのようにすでに存在するオープンな技術の組み合わせでであるものも多い。

 そういう点をさして「大した技術ではない」と述べるのは簡単だ。

 単に技術だけではなく、そこに革新をもたらす確固たる方向性を持った製品を提供する。ソフトバンクの孫社長の言葉を借りるなら 「志をもった」 製品となる。これこそがまさにアップルであり、数多の独善的な振る舞いすら許される同社のカリスマ性である。

 その象徴的なシーンが、FaceTimeの紹介でジョブズが壇上のソファーでくつろいだところだ。昭和のSFやアニメのような未来、誰もがテレビ電話で当たり前にだれかと会話する、そんな未来を思い浮かべなかっただろうか?

 アップルは愚直なまでに、あるべき未来を志向している。ときにポルノを禁じるなど、自由を制限することがあっても、彼らが実現したいのはそういう未来であり、だからこそ魅力的に感じられるのだろう。


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