企業のデータ増大に対応するため、「スケールアウト型のストレージ」が大きな注目を集めている。日本ヒューレット・パッカードのスケールアウトストレージ「HP LeftHand」についてストレージワークスビジネス本部 プロダクトマーケティング部 担当マネージャ 宮坂美樹氏に聞いた。
ミッドレンジを埋めるLeftHandの立ち位置
HP LeftHandシリーズは、容量とパフォーマンスをリニアに増強できるスケールアウト型ストレージの1つだ。2008年にHPが買収した米レフトハンドの製品をベースにしており、第一弾の「HP LeftHand P4000」が2009年7月に国内で発表されている。
HP LeftHandは、幅広いラインナップを誇る同社のストレージのうち、ミッドレンジにあたるiSCSI対応の製品だ。「もともとレフトハンド自体は10年近い歴史を持っていて、米国での実績も高かったんです。一方で弊社はハイエンドにXPやEVA、ローエンドにMSAなどのシリーズがありましたが、ミッドレンジがスポッと空いていました。レフトハンドを買収して、そこがきちんと埋まった感じです」と、買収と製品ラインナップについてこう語る。
HP LeftHandのコンセプトは、クラスタ化、仮想化、iSCSIなどの技術を用いて「ビジネスとともに規模を拡張できるストレージ」を実現するというもの。ネットワーク経由で複数台のノードを束ねて、クラスタ化することで、仮想化された単一のストレージプールを構成できる。 クラスタ化、仮想化、iSCSIといった特徴から見てわかるとおり、競合となるのは「DELL EqualLogic」だ。
iSCSIはファイバチャネル(FC)に比べて安価だが、一部のユーザーはiSCSIストレージに対して「遅い」というイメージを持っているかもしれない。しかし、昨今はマルチコアCPUがメインになり、サーバーへの負荷はもはや問題になくなっている。また、4/8GbpsにとどまるFCに対して、Ethernetはすでに10Gbpsに到達しており、性能面での課題も小さい。さらにヴイエムウェアやマイクロソフトなどの仮想化ソフトベンダーも、iSCSIベースのIP SANへのフォーカスを進めており、いよいよ本格的な導入期に入ったといえる。「今まで適当な製品がなく、性能も低かったため、多くのお客さんがiSCSI製品を敬遠していました。ですが、実際にこうした課題が解決されて、iSCSI製品に興味を持っていた方々が進んで導入してくれている状態です」とのことで、2009年はiSCSI元年だったと語っている。
容量とパフォーマンスを容易に増やせる
HP LeftHandで特徴的なのは、1台のノードがCPUとメモリ、ディスク、NICなどをすべて持っているという点。必要に応じてこれらノードを増設することで、容量とパフォーマンスをリニアに拡張できる。「従来のストレージはコントローラ依存で、容量を増やしても、性能が頭打ちになります。ですが、HP LeftHandはノンストップでノードを増設し、容量と性能を伸ばすことができます」(宮坂氏)というメリットを持つ。
最近のストレージのトレンドも、がっちり抑えている。束ねたストレージクラスタはIP経由で接続でき、サーバーに対してはダイナミックにボリュームを割り当てることが可能になる。もちろん、この割り当てに関しては、物理ストレージ以上の容量を仮想的にサーバー側に見せかけるシンプロビジョニングが利用できる。
データ保護やDRに必須なスナップショットやリモートコピーなどの機能も統合している。「スナップショットは、あらかじめ容量を用意しておかなくてもOKなので、使い勝手が優れています。また、取得したスナップショットは、非同期でDRサイトにコピーできます」ということで、機能面でもなかなか充実している。
そして、HP LeftHandの独自機能として、「ネットワークRAID」が挙げられる。これは文字どおり、ノードまたぎでRAIDを構成できる技術だ。他のノードにデータを分散するため、単一の筐体が障害が起こしても、データが消失しない。
さらにこうしたクラスタリング、シンプロビジョニング、スナップショット、リモートコピー、ネットワークRAIDなどの機能を、すべて標準搭載しているのも大きな特徴だ。「あとからスナップショットやバックアップをやろうとすると、追加でコストがかかるという製品は多い。その点、LeftHandは最初から全部入っています」(宮坂氏)。
製品は小規模向けの「P4300」のほか、サーバー仮想化向け、複数サイト向けの「P4500」のほか、「P4000 Virtual SAN Appliance」という仮想化バージョンもある。仮想化バージョンは、サーバーなどのあまった容量をまとめて単一のボリュームにできるユニークな製品。安価で、開発や検証などにお勧めだという。
ロケットスタートできた理由とは?
2009年の発表時点ですでに3500社以上の顧客を抱えていたが、発売後も「ロケットスタート」といえる好調な滑り出しを見せたという。この理由はとにかく導入・設定が簡単な点につきるようだ。確かにFCに比べ、長年親しんだIPのほうが設定が容易という点もあるが、CMCというJavaベースのツールでサクサク設定できるという点も大きい。「弊社でも、導入や構築のサービスがあるのですが、お客さんが自分でどんどんやってしまうので、あまり売れないんです」(宮坂氏)という贅沢な悩みを抱えている。
業種に偏りはないが、すでにサーバー仮想化等を導入しているユーザーがLeftHandに移行し、特にエントリーの3ノード構成はかなりの数が売れているとのこと。今後もいろいろな機能が強化される予定となっているので、ようやく来たiSCSIウェイブに乗り遅れたくないユーザーはチェックすべき製品だ。
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