原口総務相のねらうクロス・オーナーシップ規制
原口一博総務相は14日、外国人特派員協会の講演で、新聞社が放送局に出資する「クロス・オーナーシップ」を禁止する法案を国会に提出する意向を明らかにした。現在は、特定の企業による放送局の株式保有を制限する「マスメディア集中排除原則」が総務省令で定められており、新聞社の放送局に対する出資も制限されているが、原口氏はこれを法律に格上げして「言論の多様性」を確保するのだそうである。
ところが、彼は5日の記者会見で集中排除原則を緩和する方針を表明している。この2つの話を矛盾なく解釈すると、新聞社の放送局への出資は制限するが、放送局の集中排除原則は緩和するということらしい。新聞社と放送局の言論の多様性は必要だが、キー局と地方局の多様性は必要ないのだろうか。
もちろん言論の多様性は、悪いことではない。日本の新聞社が放送局を系列化して言論統制を行なっていることは、2006年に拙著『電波利権』でも明らかにした通りだ。しかし状況は大きく変わった。世界の新聞社は赤字に苦しみ、LAタイムズやシカゴ・トリビューンのような名門紙も経営が破綻し、日本の新聞も軒並み赤字になった。テレビ局も、その後を追うだろう。民放は2008年3月期決算で、業界全体として赤字になった。
こうした変化を受けて、メディア再編の動きも始まった。フジテレビ、NTTドコモ、スカパーJSATなど5社がマルチメディア放送の合弁会社を設立し、朝日新聞社、テレビ朝日、KDDIが携帯電話向けの情報配信サービスを発表するなど、新聞・放送・通信の境界を超えた「クロスメディア」の動きが活発化した。この状況で、企業の資本関係を拘束する法改正を行なうことは業界の再編やネットへの対応をさまたげる。
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