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『幻魔大戦』『ファイブスター物語』りんたろう監督インタビュー

BDの高クオリティーを引き出す“FORS”の威力を見よ!

2009年11月27日 00時00分更新

文● 氷川竜介(アニメ評論家)

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『幻魔大戦』りんたろう監督インタビュー

 最後に、本作のBlu-ray化記念イベントに出席された、りんたろう監督にあらためて本作への想いをうかがった。それを記事の締めくくりとすることにしよう。

Blu-ray Disc版「幻魔大戦」のパッケージ

Blu-ray Disc版「幻魔大戦」のパッケージ

りん この作品は、映画会社ではなく出版社がリスクを背負ってアニメーションを作る試みの先駆けです。実写で「角川映画」を成功させた角川春樹さんが「どうしてもアニメをやりたい」ということでお会いしたのがきっかけですが、「まったく新しいものを作ってみたい」と、アルゴスという専用のスタジオをつくって挑みました。

 これ以後、出版社が特別プロジェクトとしてアニメ映画を作る挑戦は、徳間書店の『風の谷のナウシカ』(宮崎駿監督/1984)など続いていきますが、幻魔大戦が大ヒットした影響は大きかったと思います。

 大友克洋さんをキャラクターデザインに起用した理由も、映画のスタイルをまったく新しくしたかったからです。当時の大友さんは、まだ知る人ぞ知るという存在でしたが、僕はたまたま、都築道夫さんの小説(銀河盗賊ビリイ・アレグロ)のカバーイラストを見ていたんです。ものすごい大蛇と盗賊を描き込んだその絵を持っていって「この人がぴったりだ」と角川春樹さんに交渉しました。

 大友さんの方は、喫茶店で3時間かけて口説き落としました(笑)。「自分の絵が本当にアニメーションになるのかな」と不安だったんでしょうね。大友さんは自転車でスタジオに通ってましたが、うまい絵描きが机を並べて作業する現場が面白かったらしく、後に監督でアニメーションの世界にどっぷり入るきっかけになったようにも思います。なかむらたかし、森本晃司、梅津泰臣ら当時の若手アニメーターが大友キャラを懸命に描いてくれて、まさに新しいスタイルができたと思います。

Blu-ray Disc版「幻魔大戦」より

Blu-ray Disc版「幻魔大戦」より

 美術監督の椋尾 篁さんとは、新宿のホテルにスイートを借り、夜景を観察しました。夜中に二人で歩いてみると、昼間とはまるで雰囲気が違う。だったらリアルに描くと、絶対に面白くならないわけです。アニメのビルはほっとくと単なる記号にしかなりませんが、僕の主観では高層ビルが墓石に見える。だから、「墓標で行きましょう」なんて話しましたね。

 クライマックスの火焔竜を作画した金田伊功くんと最初に知り合ったのは、『銀河鉄道999』(劇場版/1979)でした。ともかく竜のところの表現をどうするかで、ずいぶん話しあいましたね。1コマ、2コマの変化がアニメーション表現の真骨頂で、金田くんもそこを大事にしていますから、「ここに1コマ白いのを入れてみよう」とか、二人でワイワイやり、作っていきました。そうしたアニメーターの個性、センスの良さも、金田くんに限らず充分に出せた作品だと思います。

 日本のアニメーションは『鉄腕アトム』から独自の様式が始まったわけですが、1979年からこの1983年ぐらいで技術的には世界レベルに行き、スタイルとしてもひとつのピークを迎えています。当時、優秀だったアニメーターも、今は監督になっていて、いまだにその余波が続いている感じです。

 幻魔大戦は26年前に日本のアニメーションの主流が長編になるきっかけを作ったと映画だと自負していますが、いたるところで「新しいスタイルをつくろうとした」という点に注目していただければと思います。僕の最新作の『よなよなペンギン』も、まったく誰も見たことない、日本ならではのフルCGという新たなスタイルに挑戦しています。次の世代から新しいスターが生まれるような、新たなスタイルのさきがけになるアニメーション作品を、これからもつくり続けていきたいですね。

(一部敬称略/2009年10月25日 秋葉原UDXシアターにて)


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