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『幻魔大戦』『ファイブスター物語』りんたろう監督インタビュー

BDの高クオリティーを引き出す“FORS”の威力を見よ!

2009年11月27日 00時00分更新

文● 氷川竜介(アニメ評論家)

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HD(ハイデフ)時代の要求に応える"FORS"

Blu-ray Disc版「ファイブスター物語」のパッケージ

Blu-ray Disc版「ファイブスター物語」のパッケージ ORIGINAL STORY & ORIGINAL CHARACTERS COPYRIGHT (C)1985・1986 MAMORU NAGANO、MOTION PICTURE COPYRIGHT (C)1988 KADOKAWA PICTURES,INC.

 『幻魔大戦』(原作/平井和正、石ノ森章太郎/1983)『ファイブスター物語』(原作/永野護/1988)と、角川映画のアニメーション大作が続々とBlu-ray Disc化される(2009年11月27日発売)。両作品ともセル画とフィルムによるアニメ制作で、デジタルリマスターによって「本来のかたち」が再生される。

 キュー・テック社の新技術“FORS(フォルス) system”の採用も話題である。これは“Faithful Original Signal”の略で、クロック信号の高精度化、波形補正などでデジタル原版のハイクオリティー映像を忠実にBlu-ray Disc上へ再現する技術だ。HD(ハイデフ)映像は微細なノイズでも目立つため、オーサリング時の伝送路などを完璧にすることで、劣化を限りなくゼロに近づけるものである。

 FORSの適用効果を確かめる比較テストにも立ち会わせていただいたが、画質・音質の差は歴然で、その効果に驚いた。画質上でフィルムグレイン(粒子感)はそのままに、1枚ベールを取ったような鮮やかさを獲得。幻魔大戦では終末を暗示するデリケートな美術の色味、ファイブスター物語ではファティマやモーターヘッドなど、セル画特有の独特な彩度・明度を持つ色あいの押し出しが一段と強く感じられた。

 両作とも音楽には和太鼓やシンセサイザー、オーケストラの生楽器など多彩な音色が使われているが、どの音色の楽器がメロディーをどう奏でているか、演奏者のタッチや息づかいのニュアンスまでもが、はっきりと感じられた。

 セルとフィルム、アナログ制作による柔らかさもFORSで明瞭に分かる。たとえば熱波を表現する“波ガラス”の微妙なボケ足、あるいは「ホンモノの光」をセルの裏から当てる“透過光”の回り込みや、“拡散フィルター”によって絶妙に濃淡のついた印象は、デジタル制作では未だ完全再現に至っていない「味」なのである。FORSがオーサリングに適用されたソフトは『七人の侍』や『機動戦士ガンダムZZ』など増えつつあり、ロゴがパッケージにも表示されている。今後、Blu-ray購入前チェックのクオリティー指標のひとつになりそうだ。


時代の分水嶺にあたる『幻魔大戦』

幻魔大戦の特典フィルムブックマーク

「幻魔大戦」のパッケージに含まれる特典フィルムブックマーク(イメージ)。「ファイブスター物語」にも同様にフィルムブックマークが封入される(初回分のみ) (C)1983角川映画

 明瞭度の増した幻魔大戦の映像に接してみると、公開された1983年という時代性に即して、さまざまな想いが去来する。現在に連なるアニメの文脈を考えると、“幻魔以前以後”のような分水嶺に位置づけられる部分を多数見いだせる。

 たとえば「アニメ的リアリズム」と呼ぶべき一連の運動は、本作を源流とするものが多い。大友克洋のキャラクターデザインがその代表だ。大友キャラは骨格、頭身、ポージングから、着ている服の材質とファッションセンス、着こなし、シワのつけ方まで、徹頭徹尾リアルである。日本人特有の目が小さく鼻の低い容貌もその一環だ。そんなリアルキャラをアニメの世界に持ち込んだのは、銀河系規模の闘いや超能力、異形の生命体が続々と登場する非現実性の強い物語に対し、地に足がついた姿勢で臨もうという発想によるものだろう。

 同時に背景美術も変革を迎えたことが、高画質化ではっきりと分かる。当時のアニメはまだ非現実世界を描くことが得意と思われていた。だが、本作では吉祥寺のサンロードや新宿副都心の高層ビルなど、現実の風景をベースに、美術監督の故・椋尾 篁(むくお たかむら)が独特の色彩感覚で世界観をつくっている。「現実世界に取材する」のも現在でこそ当たり前だが、この作品は最初期の1本に位置づけられるはずだ。

 りんたろう監督の「新しいアニメのスタイルをつくりたい」という発想、優れた着眼点と思想は、このようにキャラや美術に反映している。その細部が存分に味わえるのが、今回のBlu-ray化の大きな価値だろう。そしてディテールアップによる「お楽しみ」の頂点にあるのが、故・金田伊功によるスペシャルアニメーションである。

 金田の担当シーンは劇中いくつかあり、隕石(実はベガ)の落下、明滅する光で表現される幻魔大王、ニューヨークを襲撃する幻魔ザメディボールなど、見応え充分な映像を提供している。

 そしてクライマックス、富士山を舞台にした火焔竜との死闘では、金田エフェクトの真骨頂が発揮される。それまでの劇場アニメにおける金田作画は、主にSF的な戦艦や戦闘機のバトルシーンが大半であった。しかし、同じりんたろう監督と直前に組んだ『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』(1981)では、死んだはずの女王プロメシュームの怨念それ自体をエフェクトに託して描く画期的な作画が実現する。

 幻魔の火焔竜はそれを踏まえ、「絶対の悪意」である幻魔の挑戦を、エフェクト作画で実現したものだ。次々とメタモルフォーゼし続けながら超能力者たちに挑戦する「炎」は、葛飾北斎など浮世絵アートに模したもの。平面構成的にとらえられ、決まったかたちのない「炎」は、アニメーションの「動き」でしか成立しない「情念」を驚くべき密度で伝えてくる。Blu-ray化で明瞭に判別できる炎の絶妙なフォルムとその変化は、観るものを改めて圧倒するはずだ。

 金田伊功自身、本作の翌年から宮崎駿監督作品を手がけるようになり、SFメカ戦闘、アクションから少し遠ざかるようになる。その点でも、本作のエフェクトは頂点のひとつに位置づけられるだろう。

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