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無線LANのすべて 第3回

デジタル信号をアナログ信号に変換する仕組み

きっちり知りたい無線LANの変調技術の基礎

2009年09月17日 06時00分更新

文● 水野勝成

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振幅と位相を組み合わせる直交振幅変調(QAM)

 デジタルデータと相性のよい変調方式に、多値変調と呼ばれる応用がある。基本的な位相変調は、デジタルデータを送るときにはBPSK(2PSK)といって、通常2つの状態を送ることができる方法が使われるが、これを4つ、8つ、16個というように細分化することも可能だ。この場合、細分化すればするほど多くのデータを載せることができるが、雑音に弱くなってしまう欠点がある。無線で使う場合、位相変調を細分化するのは、前に言及したようにせいぜい4つ(4PSK)、最大8つ(8PSK)程度までが実用的だ。

 4つの場合、4PSK(QPSK)と呼ばれる方法は、先に説明したときに、4つの位相にそれぞれ00、01、10、11という2ビットのデータを割り当てることができる。つまり、1つの波形で2ビット伝送できる。これは位相のずれだけを使っているが、それを振幅方向にも行なって組み合わせることができる(図8)。これを直交振幅変調(QAM)といい、たとえば振幅と位相をそれぞれ4つずづ細分化すれば、4×4=16の状態を表わすことができる。この16の状態があることから16QAMと呼び、16カ所の状態にそれぞれ0101、0111、1011などの4ビットのデータを割り当てて使われる(図9)。つまり、1つの波形により4ビットのデータを送ることができる変調方式となり、多値の位相変調では実現できなかった大容量の伝送が可能になった。

図8 QAM(直交振幅変調)のアイデア

図9 一度に4ビット伝送できる16QAM

 QAMでは、どのポジションにどんなデータ(ビット)を配置するのかは実に奥の深い話で、よく似たデータ、たとえば雑音などで1ビットだけエラーを起こす可能性も高いため、それらのデータが隣に来ないように配置するよう工夫をすると、雑音に強くなることがわかっている。さらに数の多い、1024QAMや4096QAMなどは、データ配置の組み合わせが天文学的に多くなる。そのため、誤り訂正符号を組み合わせるなどの方法で、従来知られているパターンよりも優れた配置方法が発見されることも多い。

一次変調と二次変調

 ここで紹介してきた振幅変調、周波数変調、位相変調、多値変調といったものは、搬送波にアナログ信号あるいはデジタルデータを載せる基本的な変調方式といわれる。次のパートで紹介する「スペクトラム拡散方式」では、最初の変調波を周波数方向に拡散させるために、便宜的に最初の変調のことを「一次変調」、次に周波数方向に拡散させることを「二次変調」と呼んで区別している。

 スペクトラム拡散では、一次変調はデジタルデータを電波に載せるための基本的作業であるのに対して、二次変調は雑音に強く、秘匿性が高いといった特徴を実現する作業だといえる。最近の無線LANのチップなどは一次変調および二次変調を一度に施す処理形態のため、わざわざ一次、二次という表現を使わなくてもよいのであるが、スペクトラム拡散波を作り出す作業を二段階で理解するとわかりやすいため、一次変調、二次変調という表現は今後も使われるだろう。

CCK技術

 最後にちょっと毛色の変わった変調技術を紹介しておこう。次のパートで説明するスペクトラム拡散はいったん一次変調(図10ではQPSK)したものを二次変調として周波数拡散しているのが代表的な構成だ。このとき、二次変調での周波数拡散で使われる符号は通常ランダムであるが、この符号をうまく使ってしまおうというアイデアがCCK(Complementary Code Keying)技術だ(図10)。一次変調がQPSKなら、それで一度に2ビット伝送でき、二次変調で64の状態を自由に使えるならば6ビット伝送できる。合わせて8ビット伝送できると、実に一次変調の4倍の伝送が可能になる。まさに使えるものは何でも使ってしまう技術だ。

図10 CCK変調

 もっともCCKが何でも有効かといえば、そういうわけでもない。拡散符号列を使う直接拡散方式で使える技術でのみ使える裏技でもある。OFDM等と組み合わせるために、CCKを一次変調で使うアイデアも現実にあったが普及するには至っていない。

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