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【INTERVIEW】“自デジ。”の名の下にパソコン市場へデビュー!! デジタル放送時代の“自作パソコン”を体現するピクセラの狙いとは?

2006年03月24日 11時23分更新

文● 聞き手・伊藤裕也

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[――] ピクセラではデジタル放送をソフトウェアデコーダーで処理されていますね。あえてハードウェアデコーダーを使わないことにも、こだわりがあるということでしょうか。
橋谷氏
[橋谷氏] デジタル放送では“コピーワンス(※3)”など今後変わるかもしれない要素が多々ありますが、ソフトウェアソリューションであればそうした変更にも柔軟に対応できます。例えば、現在のデジタル放送のビデオフォーマットはMPEG-2ですが、将来H.264に切り替わったとしても我々はソフトウェアCODECを用意すれば対応できるわけです。ただ、ソフトウェアデコードゆえにデジタル放送を視聴している間はCPU負荷が高いというのがあるので、これは今後直していくべき課題だと認識しています。通常の放送番組は全く問題ないのですが、ベンチマークテスト代わりに使っているのがBSデジタルの103チャンネルですね。特にHDビデオは映像のビットレートが24Mbpsで、フレームサイズは1920×1080ドット。これは過酷ですね(笑)。
※3 コピーワンス コピーワンスはコピー制御方式のひとつで、簡単にいえば“映像を1回だけコピー可能”というもの。放送中の番組を録画することは可能だが、録画した番組をさらにコピー――つまりコピーした番組からコピーを作成することは許されない。メディア間を移動する“ムーブ”(コピー元を確実に削除)であれば、制限なく実行可能だ。地上デジタル・BSデジタルで放送される番組のすべてがこのコピーワンスにより提供されているのだが、最近になってコピーワンスに関する運用の見直しが検討されている。複数回のコピーを認めるなどの案もあるようだが、将来的にはコピー回数の制限にはよらない柔軟な運用に変わっていくだろう。

[――] 将来はソフトウェアダウンロードによる追加機能も提供されるということですか?
[橋谷氏] そうです。現在予定しているアップデートとしては、社内評価の関係で発売日に間に合わなかった、記録型DVDに映像をダウンコンバートして記録(移動)する“ムーブ”機能の提供があります。スケジュールはまだ確定ではないのですが、5月の大型連休前には提供したいと考えています。


長野氏
[長野氏] ムーブは最初から入れたかったのですが、まずは市場に製品投入することを優先しました。そこで、ムーブについてはアップデート提供という形になっています。
[――] サッカーのW杯には間に合いそうですね。
[橋谷氏] ええ。それまでには、ユーザーさんにHDDの拡張方法なども提案していきたいですね。今のスペックでは、内蔵HDD(約300GB)にHD放送を25時間(※4)しか記録できません。いまどきTV番組の録画が25時間だけというのはないですからね。そのあたりはソリューション(解決手段)として、ピクセラ推奨の方法を提案できればと思っています。もっとも自作ユーザーさんでしたら、おそらく勝手に追加・増強しているかも、とは思っていますが(笑)。
※4 録画可能時間の“25時間”は、BSデジタルのハイビジョン番組を録画した場合で算出。BSデジタルのハイビジョン番組のビットレートは24Mbps。

[――] ソフトウェアの作りこみでもっとも苦労された点は?
[長野氏] ソフトウェアデコーダーの映像品質ですね。これはOEM出荷している先での話ですが、かつて、ある家電量販店から店頭デモ機において「映像のガタつきがひどい」とクレームがありまして、そのお店に閉店後から伺って実際どういった現象かを確認したり、その場でデバッガーを開いたりもしました。そのときは、我々が開発中に確認した映像では何ら問題なかったんですが、実放送の信号を入力してみたらモーションベクター(画面内の動き)が激しい映像でガタつきが顕著になったんです。そこでデコーダー技術者がアメリカにあるグラフィックカードメーカーにすぐ飛びまして、我々もアメリカ時間に合わせて夜中出勤で、お互いに連絡を取り合いつつ開発・改良を行なったことがありました。データ放送のブラウザーの作りこみや規格書を見ながらの開発という苦労もあるのですが、やはりどれが一番大変だったかというと、デコーダー開発ですね。デコーダーの開発者には本当に感謝しています。
[――] アナログ放送のチューナーカードではかなりノウハウを持つ御社ですが、デジタル放送ならではの苦労もあったのではないでしょうか?
[長野氏] 音声のモノラル⇔ステレオ切り替えはアナログ放送でもあったのですが、デジタル放送では画角の変更、例えば16:9からCMに入った瞬間に4:3へ切り変わったり、また映像のビットレートが変わったりということが頻繁に発生します。それをソフトウェアで処理していますので、反応速度といった面ではまだ改善の余地があるだろうと考えています。
[――] 反応速度と言えば、チャンネル変更のレスポンスでユーザーからクレームがあったりするのでしょうか?


長野氏
[長野氏] そうですね。やはりアナログ放送のTVを使い続けていたお客様からは、「すぐに変わらないじゃないか」といった声が寄せられたことはあります。アナログテレビは1秒かからずにチャンネルが切り替わります。しかし、デジタル放送ではOFDM(直交波周波数分割多重)とよばれる変調方式でチャンネルの周波数をロックするんですが、そのCN比(搬送波と雑音成分の比率・受信感度)を安定させるまでに3~4秒かかると言われているんです。事実、一般的な家電製品でも、デジタル放送ではチャンネルを切り替えてから映像と音声が出てくるまで3秒程度は要します。アナログ放送から比べてどうしても時間はかかってしまうんですけれども、デジタルTVチューナーについてもピクセラの関連会社で作っているので、将来的には改善していきたいと話し合っています。
[――] 具体的には何か速度面で何か改良・改善が行なわれているのでしょうか?
[長野氏] PIX-DP010-PW0には“第2世代”となる新型のデジタルTVチューナーカードを搭載しています。このカードではOFDM関連パーツを意識して選定しています。去年発表した第1世代のデジタルTVチューナーカードは、手探りで始めたので、実際に開発していく過程で見つかった課題がいくつかありました。例えば視聴・録画アプリケーションの仕様として何秒以内にチャンネル切り替えを完了する――といったことを規定しても、TVチューナーのOFDMレベルで実現できないということが往々にしてありました。今回はそのあたりを教訓に、選定基準から見直しを図っています。ハードウェアの選定から経験を積んだというのはありますね。
[――] ところで視聴・録画ソフトウェアを使ってみると、高解像度対応の液晶ディスプレーで使っていても、メニュー画面が中央に表示されてしまうのが少し気になるのですが。
[長野氏] ああ、センタリングですね。これは当初、解像度をある程度決めうちで作っていたからなんです。視聴・録画ソフトウェアの開発に初めて着手したのは2年前なのですが、その当時はフルHD対応パソコン用液晶ディスプレーが登場するとは想定していなかったんです。PIX-DP010-PW0の場合、組み合わせる液晶ディスプレーはユーザーさんのほうである程度選択できますから、解像度を決めうちという訳にはいかないのですが、現在のセンタリングした見せ方に関して、もう少し別の形にすれば違和感を打ち消せるかもしれないという反省もあります。ただ、今はメインの部分の開発に集中し、機能を取りこぼさない、ユーザーが求める機能を増やしていくことに注力していきたいと考えています。確かに、このセンタリングはちょっと見栄えが悪いんですけどね。

[――] 今年に入ってデジタル放送対応パソコンで録画番組のムーブなどができるようになりましたが、デジタル放送を楽しむにはまだまだ課題が多いように思えます。
[長野氏] デジタル放送のソリューション全般がそうなんですけども、ユーザーさんからすると、例えば「なんでムーブしかできないのか?」「液晶ディスプレーならすでに持ってるのに、なぜ手持ちのものが使えないの?」など、さまざまなところで不満があることは認識しています。それを伺う機会もあるのですが、我々としては「そうARIBが決めたんだから」としか回答のしようがないんですよね(笑)。確かに、ユーザーさんには最も納得のいかないところですね。


橋谷氏&長野氏
[――] 映像コンテンツを提供する側の権利を守るために、ある程度の規制が必要なことは多くの読者(利用者)も理解していると思うのですが、その規制によって利用者の利便性が大きく損なわれるのはいかがなものか、と編集部でも思っています。それでは最後に読者にメッセージをお願いします。
[橋谷氏] TVチューナーカードのOEM提供の実績があったからこそ、このパソコンが完成しました。これからはパソコンの販売に軸足を移すということではないですが、OEM提供とパソコンの両輪の相乗効果によって、デジタル放送対応パソコンの市場が大きくなり、さらに使いやすく製品を展開できればと考えています。

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