マイクロソフト、アカデミック向け戦略に関する記者説明会を開催――産学連携をさらに強化、学生を対象にVisual Studio最新版を低価格で提供も
2005年11月07日 19時43分更新
マイクロソフト(株)は7日、都内ホテルで記者説明会を開催し、同社代表執行役社長兼米マイクロソフト社コーポレートバイスプレジデントのダレン・ヒューストン(Darren Huston)氏らがアカデミック分野向けの戦略に関する説明を行なった。ヒューストン氏は同社社長就任時に、投資拡大/技術革新促進/パートナーシップ強化を目的とする3年計画“PLAN-J”を発表しているが、産学連携の取り組みはこの計画に含まれる活動のひとつ。
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代表執行役社長兼米マイクロソフト社コーポレートバイスプレジデントのダレン・ヒューストン氏 |
説明会の冒頭にヒューストン氏は、世界のIT市場における日本の役割の重要性を指摘、「新しい試みはアカデミア(学園の意)から始まる」と述べ、IT市場で重要な位置を占める日本の教育機関による研究開発や人材育成の必要性を強調した。また、変化の早い世界情勢に対応できる教育の実現に向け、「次代を担う子供たちに新しい経験を」与えるための教育分野におけるIT活用の促進を訴え、教育機関やパートナー企業と協力してIT普及支援に取り組んでいくと述べた。
この日ヒューストン氏が発表したアカデミック分野向けの新戦略は、“産学連携による先端技術研究の強化”“ソフトウェアを通じて学生の可能性を拡大”“教育におけるIT活用の推進”という3つの柱からなる。ヒューストン氏および各分野の担当者・関係者が説明した具体的な取り組み内容は以下のとおり。
“産学連携による先端技術研究の強化”
- マイクロソフト産学連携研究機構(IJARC)を通じた共同研究の拡大
- 現在進行している3つの共同研究プロジェクト(“グラフィックスサーチ”“ユーザーインターフェース”“自然言語処理”)に加え、“人とコンピュータとのインタラクション”テーマとして“検索”分野を、“先端的ソフトウェア技術”として“Trustworthy Computing(信頼できるコンピューティング)/セキュリティ ”“ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)”“Windowsオペレーティングシステム(OS)テクノロジー”“組み込みシステム”の4分野を追加し、従来のものと合わせて計8分野の研究に関する公募を15日から行なう。
- フェローシップの実施
- 2004年から実施している“MSRA(Microsoft Research Asia)フェローシップ”制度に基づき、情報工学/コンピューター科学分野に従事する4名の大学院生にフェローシップを授与。受賞者は米マイクロソフトの研究/開発部門である“マイクロソフトリサーチ”から奨学金を授与されるほか、MSRAへの3ヵ月間のインターンシップ参加が可能となる。
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2005年の“MSRA(Microsoft Research Asia)フェローシップ”受賞者 |
“ソフトウェアを通じて学生の可能性を拡大”
- 最新のソフトウェアをより身近に提供
- ITやプログラミングに興味のある学生が最新の開発ツールを入手しやすくするため、アカデミック向け製品の提供や学生ユーザー限定のキャンペーンを実施。発表されたパッケージおよびキャンペーンは次のとおり。
- “「Get!Visual Studio 2005」キャンペーン”:『Visual Studio .NET the Spoke Premium 2003』を購入、登録した学生を対象に『Visual Studio 2005 Professional Edition』を追加費用なしでダウンロード提供。既存ユーザーも対象。
- 『Visual Studio 2005 Academic Edition』:学生および教職員向けのパッケージで、内容は『Visual Studio 2005 Standard Edition』に相当。パッケージ価格は4800円。
- 『Visual Studio 2005 Express Edition』:入門ツールという位置付けのVisual Studio 2005のエディション(一般向け製品)。パッケージ(価格は4800円)、ダウンロード提供、雑誌/書籍添付で提供。
- スキルの習得と学生間の交流の機会を提供
- 学生によるプログラミングの自主学習素材として、オンラインプログラミング言語学習、エキスパートによるウェブキャスト、ソフトウェア実践テキストを提供。さらに、同社社員によるオンキャンパスセミナー、学生向けコミュニティー“the Spoke”会員向けセミナーおよび交流会を実施。
- 可能性を広げるためのグローバルな挑戦機会の提供
- 学生が習得したスキルを試す挑戦の場として、日本国内向けイベント“The Student Day”、世界規模の技術コンテスト“Imagine Cup 2006”を開催。
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学生向けのキャンペーンやパッケージの説明を行なった執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の鈴木協一郎氏 |
“教育におけるIT活用の推進”
- IT教育研修や評価/認定制度の拡充
- “パソコン検定試験”公式テキスト:マイクロソフト、ICT教育推進プログラム協議会、パソコン検定協会の提携により、“ICTスキルアッププログラム”(※1)のノウハウを取り入れた“パソコン検定試験”初の公式テキストを共同で制作し、全国の中学校や高等学校における情報教育の推進を支援。
- 国立教員養成系大学へのICTスキルアッププログラムの提供:国立大学教育実践研究関連センター協議会との連携により、国立教員養成系大学(全国13大学、対象学生は約9000人)に“ICTスキルアッププログラム”を提供。この連携を通じて、教員を志望する全国の教員養成系大学の学生のIT利活用スキル向上を支援。
- 新しい教育環境の提案と提唱
- 6月に同社と東京大学との間で締結した研究プロジェクトを発展・拡大し、新しい大学教育環境のデザイン/新しい教育ソフトウェアの開発/教育の情報化に関する基礎研究の3テーマを研究する“マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門(仮称)”を設置。タブレットPCなどを活用した新しい教育モデル、コラボレーション可能なユビキタス環境の教室の構築などを目指す。
※1 マイクロソフトとICT教育推進プログラム協議会が連携し、2004年5月から展開している小中高等学校等の教職員のITスキル向上支援プログラム。現在、茨城県/東京都/兵庫県/宮城県の4都県で現職の教職員を対象にした研修を実施。
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教育におけるIT活用の推進について説明した執行役 公共インダストリー統括本部長の大井川和彦氏。同氏は「(教育分野でのIT活用の推進に向けた取り組みは)政府やマイクロソフトなどの民間ともに、まだまだ目標を達成したとはいえない」と述べ、取り組みの強化を強調した |
プレゼンテーション後の質疑応答の中でヒューストン氏は、教育へのIT導入が遅れている現状に対するマイクロソフトの今後の対応についての質問に答え、「(日本には)ブロードバンド環境をはじめとする世界有数のインフラはすでにあるが、これを活用するための“シナリオ”が必要」だと指摘。ヒューストン氏によると、同社はこの“シナリオ”作りが支援可能だとしており、教育や研究の現場で“どのようにテクノロジーが使えるか”を提案していきたいとしている。
