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【遠藤 諭の快適iPod life(Vol.1)】ドック型iPod専用スピーカー『BOSE SoundDock』――私はいかにして“重低音”に身悶えるようになったか?

2004年12月29日 22時29分更新

文● パソコン評論家:遠藤 諭

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iPodの“シンプル”さくみとったスピーカー

街中や電車の中での“ヘッドフォン人口”が確実に増えている。渋谷センター街の“ぬいぐるマー”の女の子たちが、どんな発生理由なのかは謎だが、こっちの理由ははっきりしている。いうまでもなく“iPod効果”だろう。なぜ、iPodが凄いのか? すでに語り尽くされていると思うが、“シンプル”なところがすべてといっても良いと思う。そのコンセプトを見事にくみ取ったのがボーズ(株)(以下、BOSE)の『SoundDock』である。

ボーズ(株)の『SoundDock』
ボーズ(株)の『SoundDock』。第3、第4世代のiPod、iPod miniに対応(iPod photoには対応していない)。サイズは幅303×高さ169×奥行き165mm、重量は2.1kg。消費電力は最大36W(待機時5W以下)。価格は3万4860円。

自分ではあまり“音”にうるさいつもりではないのだが、どうも周りと話をしているとそうでもない。“音”に対する傾斜の強さは個人差もさることながら世代差が大きいのかもしれない。私とそれよりも少し後くらいの世代、1950~1960年代にかけてのあたりに生まれた連中というのか? 要するに、FMをエアチェック(下手すると生録コンサートに出ずっぱる)、クラスの過半数以上が最低でもギターくらいやってないと女の子に相手にされないという世代である。ちなみに、“生録コンサート”というのは、プロの演奏を素人が大量のマイクを立てて録音しまくるという異様な催しでありました。私も、中古のデンスケ担いで佐藤雅彦(p=だんご三兄弟のではなくて)のそれとかに出かけたことがある。

さて、オフィスで15GBのiPodを使っている私だが、週末のお仕事にスピーカーを繋いでみたいと思った。社内をブラブラと物色して歩いてみて、そのあたりに転がっているやつを1、2個試してみたが、どうもピンとこない。月刊アスキー編集部のバンド野郎のKにボヤいたら、PC用のスピーカーだとこれでもまともなほうでしょうと答えた。さらに、ブラブラしていたらASCII24編集部のKが、「だったら、このあたりどうですかね?」と貸してくれたのが『BOSE SoundDock』だった。

名前のとおりドック型のBOSE SoundDock
名前のとおりドック型のBOSE SoundDock。データ転送こそできないものの再生しながら充電できる。これで、“Dock&Play”だそうだ

シリコンオーディオプレーヤーというか、ハードディスク型音楽プレーヤーというか、要するに、この手の音楽プレーヤーに感しては、私はいささかうるさい。この世界の先駆けである『MPMan』に関しては、アスキーがネット売って、その後も販売するかという時期があった。私は、担当のT氏に付き合ってヨドバシカメラに売りに行ったことがある(顛末は長くなるのでまたの機会に)。その後も、たぶん“生涯購入音楽プレイヤー数”では、日本でも上位の部類に入ると思うのだが、ちゃんと使うようになったのはiPod以降である。なんといっても、ハードウェアと音楽ソースとソフトウェアがスッキリと一本の流れの中にあることが、大きい。

誰にも、生まれてからその時までの人生の中での音楽体験というものがあるだろう。それは、いわばバーチャルなライブラリで、それを、外部脳のようにして音楽自体をため込んでリアルなライブラリにしてしまう入れ物がiPodなのだ。だとしたら、これ専用のスピーカーというものは、中途半端なものではあってはならないはずだ。

あまりにもシンプル、だからiPod専用

箱から出して、テーブルの上に設置しようとすると、ちょっと何かモノ足らないような気分になる。SoundDockの本体には、文字どおりiPodをのせるお皿(インサート)がある。このインサートは10/15/20GB用、30/40GB用、mini用、20GB Click Wheel用、40GB Click Wheel用の5種類が用意されている。あとは、その左右にボリュームの“+”と“-”があるだけ。

カード型のリモコンが付属していて、“off”、“+”、“-”、送り、戻し、再生ができる。これは、いささか素っ気なさ過ぎるという意見もあるかもしれない。しかし、iPodの操作体系を吟味していると本当によく考えられていると思う。こんなのが今頃出てきたということは、25年間、日本のAV機器業界は何をしてきたのだろう? などと思わず言いたくなる。実際には、“スティックコントローラ”など秀逸なものもあるのだが、あのグルグル、やられた感があるでしょう。あれにいちばん近い操作感は、いうまでもなくビデオ機器やリモコンで使われる“ジョグシャトル”だろう。以前、あるメーカーの方に「もっと使えばいいのに」と言ったら、コストの問題という返事が返ってきた。そこで、iPodのグルグルをリモコンにもと言いたくなるが、実際には、液晶が目の前で見えるわけでもないので、あくまでイージーに使いたいためのリモコンなのだろう。ついでながら、AUXなんて端子はないわけで、“iPod的わがままさ”には徹底していて、あくまで専用である。

ドックにiPodをシックリのせるためのコネクタ部のお皿(インサート)
ドックにiPodをシックリのせるためのコネクタ部のお皿(インサート)。10/15/20GB用、30/40GB用、mini用、20GB Click Wheel用、40GB Click Wheel用の5種類が用意されている
インサートには、どのiPodに合うか数字がかかれているので分かりやすい
インサートには、どのiPodに合うか数字がかかれているので分かりやすい
付属のリモコン付属のリモコン

さて、肝心の音である。最初にかけたのはチック・コリアとハービー・ハンコックの「イン・コンサート」。BOSEというと、『Wave Radio/CD』といった小型ながら迫力ある重低音の音響機器を、企業の昼休みなんかを利用してセールスして回っている。いかにも、欧米の企業らしい売り方だが、実際、隣の会議室とかで鳴っていてもビックリしてしまう。これは中華料理店で料理前の上海蟹を見せられるようなもので、気分を盛り上げて購買行動自体を楽しんでもらおうというようなことかもしれない(こういうものは気持ちよく買わないと)。いずれにしろ、その形に似合わぬ迫力が特徴だが、SoundDockも同じだ。iPodの再生をはじめたとたんに「おっ!」と言わせるものがある。

SoundDockは、エンクロージャー(箱)というか本体の形状からしてスピーカーの背後に低音を共鳴させるパイプを配したWave Radio/CDとは違うはずだ。なぜ、同じ技術を使わなかったのかは私には知るよしもないが、「処女航海」の頭のピアノの低い音がズーンと響いてくる。それから、「ラ・フィエスタ」のツヤのあるピアノの音の絡み合いが、私の席のまわりから、オフィスの16畳くらいのスペースを占領するくらいまで、どのボリュームでもバランスよく広がる。

昔は、私もダイヤトーンのでかいスピーカーを部屋に置いて音楽を聴いていた。その頃の曲を聴いていると、iPod+iTunes Music Store+BOSE SoundDock(※iTunes Music storeは日本ではサービスされていない)はタイムマシンか? という気分になってくる。ついでに、オールナイトニッポンの第二部なんかをやっていた、いまなりあきよし氏のお父さんが取り組んでいたコンクリート製のバックロードホーン型スピーカーというのを思い出した。それを作っている工房におじゃましたことがあるのだが、まるで空間で捕まえられるような音がした。もう何年も、どちらかというと家では映像を見ることのほうが多く、音楽はヘッドホンのお世話になることのほうが多かったけど、“音”だけで身悶える世界があったのだ。BOSE SoundDockは、ヘッドホン以上の気軽さで(なにしろ電源コード以外の配線というものがない)その気分を取り戻させてくれる。たぶん、iPod専用のスピーカーというのは必ずしも適切な表現ではなくて、オフィスや自室の観葉植物や空気清浄機やお気に入りの小物にも通ずる環境ツールなのだろう。

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