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セイコーエプソン、自律飛行を可能にした世界最軽量ロボット『μFR-II』を公開テスト

2004年08月19日 23時36分更新

文● 編集部 美和正臣

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セイコーエプソン(株)は18日、東京都新宿区の東京事業所で、Bluetoothでシステムと通信し、自律飛行する小型ロボット『μFR-II』の公開テストを行なった。このロボットは2003年11月に公開されたプロトタイプの『μFR』の後継機にあたる。従来のものが有線で電力を供給していたのに対し、μFR-IIではバッテリーが搭載され、自律飛行が可能になった。

自律飛行を可能にしたロボット『μFR-II』。従来は100gが限界だろうと言われていたが、その常識を打ち破る12.3gという軽さを実現しているμFR-IIのサイズは手のひらサイズだが、鼻息程度でも動いてしまう μFRは563点の部品で構成されている。外観のシンプルさに惑わされてはならない

μFRのコンセプトは“小さくて人の役に立つ”というもの。その第1弾として登場したのが、2003年に発表した『μFR』だ。空中にホバリングが可能で、高所や毒物に汚染されたような人の行けない場所の情報を取得できるロボットを目指してプロジェクトが開始された。そして、自律システムで動作する機能を付加されたのが、今回のμFR-IIだ。

サイズは直径約136mm、高さは約85mmで、重量は12.3g。フレーム部にはカーボンファイバーやチタンなどを使用し、プロペラ部には発砲スチロールを加工したものを利用している。バッテリーはポリマーリチウム電池を使用し、飛行時間は約3分。揚力は約17g・fとなっている。

今回のモデルはバッテリーを搭載するため、そのぶん重くなり、揚力を得られなくなる。そのため前モデルから構造や設計を大幅に変更している。また、新たな機能も付け加えられた。改良点は次のようなものだ。

ジャイロセンサー“XV-3500CB”の採用
同社が開発した従来のものに比べてサイズが10分の1、質量が5分の1の世界最小最軽量というジャイロセンサーを使用して軽量化
RISCチップ“S1C33Family”の改良
エプソンのRISCチップ“S1C33Family”を高密度実装することにより、さらなる軽量化実現
超音波モーターやローターの改良
超音波モーターの出力を上げ、ローターの形状を改良することにより、従来に比べて30%増の浮力を実現
CMOSカメラの搭載
従来はBluetoothによる遠隔操作だけを行なえたが、新たに本体に取り付けられたCMOSカメラの映像をBluetooth経由で転送する機能を追加

以上の4点である。

高密度実装したμFR-IIの本体部分。左下に見える丸いユニットがCMOSカメラ。Bluetooth経由で映像が操作するパソコンに送信される。ただし、かなりコマ落ちが発生する μFR-IIのCMOSカメラから送られてきた映像。映っているのは取材に訪れた記者たち。モニターの映像はやや粗いμFR-IIに搭載されているプロペラを動作させる超薄型超音波モーターは、人間の筋肉の10倍、超小型電磁モーターの80倍の能力がある。超音波モーターは同社のインクジェットプリンターのノズルに使用されているピエゾ素子(圧電素子)を利用している

今回の自律飛行システムで一番大きな役割を果たしたのが、ジャイロセンサー“XV-3500CB”の小型化だ。約17g・fしか揚力を得ることができないため、自律飛行システムの核となるデバイスの小型化が問題解決の糸口となる。セイコーエプソン(株)水晶デバイス事業部QT技術サポートグループ 課長 宮澤健氏は、“XV-3500CB”を「エプソンの細密化技術の粋」と語る。

“XV-3500CB”のサイズは幅5.0×奥行き3.2×高さ1.3mm。従来のものに比べて10分の1ほど小さい。これは3つのベースとなる技術により、小型化を実現したという。1つは、フォトグラフィーという細微化も兼ねた表面加工技術だ。“XV-3500CB”には、この技術で作成した“新H型振動子”と呼ばれる超小型の水晶が組み込まれており、その水晶の圧電性を利用して動作するため、特性が安定しているという。2つめは、内蔵されるアナログ回路。2.1mA(typ.)と消費電流が少なく、スリープモード機能も有しているため、「低消費電力と起動時間の短縮を実現した」(同氏)と語る。3つめが“真空セラミックPKG”と呼ばれるパッケージング技術だ。内部が真空になっているため気密性が高く、耐衝撃、耐環境性にも優れているという。

セイコーエプソン(株)水晶デバイス事業部QT技術サポートグループ 課長 宮澤健氏。小型ジャイロセンサーの特徴について解説した“XV-3500CB”の小型化には3つの技術が重要と語る“XV-3500CB”の仕様。パッケージのサイズは従来の小型ジャイロセンサーに比べて10分の1のサイズ

テスト飛行、失敗に終わる

すべてのプレゼンテーションが終了したのち、μFR-IIの自律飛行の公開テストが行なわれた。μFR-IIの開発者である、セイコーエプソン(株)研究開発本部開発企画知財推進部課長 工学博士 宮澤修氏によれば、テスト当日に制御サーバーが故障し、システムの調子がすこぶる悪いとのこと。「自律飛行はかなりチャレンジングになります」との説明だ。

システムの構成はμFR-II動作をコントロールする制御サーバーが1台。そして、μFR-IIの位置情報を検出するCCDカメラが接続された“位置情報検出サーバー”が2台、それにμFR-IIに搭載されたCMOSカメラからの映像を映し出すモニター用のパソコンが1台となっており、それぞれがネットワークに接続されている。

μFRのコンセプトを語るセイコーエプソン(株)研究開発本部開発企画知財推進部課長 工学博士 宮澤修氏今回テストで使用されたシステム。テスト当日にサーバー2台が壊れて、テスト時には調子が悪かったとのこと今回のシステムの概要図。CCDカメラ2台で位置情報を検出する。μFR-IIの底には動作識別用のデザインが描かれており、それをサーバーが認識して動作を制御する

1回目の飛行では飛び立ったとたん、Bluetoothの電波が途切れ、地上150cmぐらいからテーブルの上へ落下! しかし、μFR-IIの自重が軽いためか破損することはなかった。

2回目は、自律飛行に入る直前に空調の風により大きく機体が揺れ、抑えることができずに着地。氏は「風の影響を受けずにホバリングする制御技術も今後の問題」と解説していた。3度目は、室内の空調を切った状態で開始。しかし上昇してホバリングを開始したとたん、またもや姿勢を崩して着地した。氏の「4度目の正直ということもあります」との声で再びチャレンジしたが、今度はバッテリーが切れてタイムオーバーとなってしまった。

今回の公開テストでは自律飛行に失敗したが、自律飛行に成功した際の映像を見ることができた。その映像では、プログラムした通りに自律飛行していた。条件さえ整えれば、高度十mまでの飛行は可能だという。

μFR-IIが飛び立った瞬間。最初だけは人の操作で動作させなければならない。あとは巡航ミサイルのように、あらかじめプログラムされた空間を自律飛行する自律飛行の公開テストに失敗したため、成功したときの映像を鑑賞。確かに自律飛行をしていた今回プログラムされた軌跡。空調などの影響があったため、実際の軌道は大きくズレている

自立型ロボットと小型ジャイロセンサーの未来

開発者の宮澤修氏は、μFRのようなロボットは、火星探査などに利用できるようになるだろうと解説する。

CGで作成したμFRの利用予想図を示しながら、「現在の火星探査機は軽自動車ほどの大きさがある。そのため着陸するときの衝撃は凄まじい。μFRのように質量の小さなロボットならば、着陸時に衝撃も少なく、壊れることもない。また、小さいから大量に持って行き、広域に分散して群作業ができる。あるμFRは地質調査、あるものは情報伝達、またあるものは動力の補充など、役割分担により多彩なミッションが可能になる。μFRを離発着させる戦車のような母船を用意して、母船で目的地の近くまで移動し、できるだけμFRに負荷がかからないようにすることもできる。また母船に通信機能を持たせ、母船を介してμFRを制御すればより広域での活動ができる」と、こういった小型ロボットの利点を力説した。

地上で使用できる超小型ロボットに関しては「従来は100gが限界と言われていた小型ロボットが10gになり、夢が広がった。最終的には3g程度でホバリングが可能なものを作成したい。イメージとしてはトンボ。蚊ほどの大きさにまで小型化すると風に流されるし、鳥ほどの大きさになると何かの拍子に落ちてきたときに危ないし、壊れやすい」と語る。

これがカウリングを装着した、完成系のμFRのイメージ図μFRの行動範囲を広げるため、母船を利用したシステムがベストと考えられているμFRシリーズが実用化されると、セキュリティーやメンテナンスだけではなく、人工益虫などにも転用できるようになるという

一方、小型ジャイロセンサーの説明をした宮澤健氏は、“XV-3500CB”の出荷を今年の12月と言明した上で、使用されるだろう機器を紹介した。「まず、携帯電話。GPSと磁気センサーと組み合わせて、ナビの高精度化を実現できる。それにデジタルカメラなどの手ブレ防止機能」と説明。将来的には2つのラインナップになっていくという。1つがより小型化に進むもので、小型の携帯情報端末に向けたもの。もう1つが、より高機能、高精度化するもので、カーナビや自動車の横滑り検知機能など、1つのモジュールにして提供したいとする。「“XV-3500CB”をより付加価値の高いものにしたい」と将来の目標を語った。

なお、μFR-IIは技術検証を行なうプロトタイプのため、一般販売の予定はない。今月の27日(金)~30日(月)に東京都千代田区の“東京国際フォーラム”で催される“未来創造フェスタ”で一般公開される。

ジャイロセンサーの小型化により、今までは搭載できなかったような機器で、GPSや手ブレ防止機能を利用できるようになる小型ジャイロセンサーのロードマップ。より小型の方向と、高機能高精度化の方向の2つになるという

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