ソフトバンク(株)は11日、東京・水天宮のロイヤルパークホテルに報道関係者や証券アナリストなどを集めて平成17年度(2004年度)第1四半期の決算説明会を開催した。会見には、代表取締役社長の孫 正義氏、取締役の笠井和彦氏、財務部部長の後藤芳光氏らが出席し、財務・業績の概況や詳細を明らかにした。
代表取締役社長の孫 正義氏 |
同社は5月に表明した日本テレコム(株)の買収を7月30日に完了(当初は11月16日完了予定だったが、繰り上げ実施)したばかりで、証券アナリストなども高い関心を寄せ、積極的な質疑応答が行なわれた。
連結売上高の推移とその内訳(2002年Q1から第1四半期ごとの比較) | ブロードバンド事業の売上高と営業損益の推移 | 純有利子負債の推移 |
同社が発表した財務・業績の概要は以下のとおり。
経営成績(連結)の状況
- 売上高(100万円未満切捨て、以下同)
- 今期 1473億1100万円
- 前年同期 1038億8100万円
- 営業損益
- 今期 38億1900万円
- 前年同期 241億9700万円
- 経常損益
- 今期 116億6900万円
- 前年同期 306億3300万円
- 四半期(当期)純損益
- 今期 178億7600万円
- 前年同期 347億3400万円
財政状態(連結)の状況
- 総資産
- 今期 1兆6673億300万円
- 前年同期 1兆84億7800万円
- 株主資本
- 今期 2306億4500万円
- 前年同期 2726億3000万円
- 株主資本比率
- 今期 13.8%
- 前年同期 27.0%
連結キャッシュフローの状況
- 営業活動によるキャッシュフロー
- 今期 △119億3700万円
- 前年同期 △378億2100万円
- 投資活動によるキャッシュフロー
- 今期 △233億100万円
- 前年同期 △78億9900万円
- 財務活動によるキャッシュフロー
- 今期 987億5200万円
- 前年同期 227億9100万円
- 現金および現金同等物の期末残高
- 今期 5043億9500万円
- 前年同期 1246億6000万円
決算概況の説明については、孫氏本人がすべて発言し、「売上高の増加、EBITDA(営業損益と減価償却費の合算)の拡大と営業損失の縮小、純有利子負債の減少によって、“成長性”“収益性”“安全性”の3つの柱が構築できた」と切り出し、同社の業績・財務状況の改善ペースが上がっていることを強くアピールした。
2002年11月に発表した経営戦略/財務戦略のチャート | 2002年当時から現在までの推移を並べ、当時宣言したとおりに成長を果たしたとアピール |
連結売上高については、関連子会社ソフトバンクBB(株)による“BB(ブロードバンド)事業”や“インターネット・カルチャー事業”の成長が大きく貢献。連結の営業損益についても、2002年第4四半期の337億円をピークにV字回復を見せていると説明した。特に強調したのがEBITDA(イービットディーエー)の60億円の黒字で、「これはBB事業開始以来最大で、海外の投資家などは営業利益/損益よりも、こちらの数字を重視する」と鼻息荒く説明した。BB事業以外の営業利益は145億円で、こちらも大幅に拡大。前年同期から3.2倍と高い成長を見せたという。
こうした成長の背景として、ブロードバンド(ADSL)接続回線数が7月末現在で435万件、ISP(インターネットサービスプロバイダー)の契約者数が481万件にのぼり、顧客獲得費(駅前などでの営業活動にかかる経費)考慮前の営業利益が今期113億円を計上したことを挙げた。同社では、回線速度の向上による基本料/モデムレンタル料の引き上げに加えて、IP電話“BBフォン”や無線LAN対応などの付加サービスを提供し、1ユーザー当たりの平均収入(ARPU)を事業開始当初の2000円程度から4100円超に引き上げることに成功した。実際、26Mbps以上の高速接続サービス利用者が全体の15.3%、無線LAN利用者は19.1%と順調に増加を続け、固定費や顧客獲得費は期ごとの変動はあれど、ほぼ横ばいで推移している。また、今年春の個人情報漏洩事件の影響もほぼ収束し、解約率は1%台で安定推移しているという。
BB事業開始以来のARPUの推移 | BB事業の商品ミックス(付加価値サービス提供)と、利用者の割合の推移 | 1ユーザーあたりの利益額/利益率の推移 |
同社では今後の更なる成長に向けて、一つは日本テレコムの買収を早期に完了し、日本テレコムが持っていた法人顧客への強みを活用し、シナジー(協調)効果を得るとともに、個人情報管理の徹底とサポート体制の強化を図るために(株)ベルシステム24との包括的業務提携を行ない、サポートのアウトソース化を進めていることを説明した。後者は、コールセンターの強化によるサポートサービスの充実だけでなく、同社のテレマーケティングのノウハウを活用した有料付加サービスの売り込みにも活用し、今後の利益拡大を期待しているという。
日本テレコムの買収効果のひとつとして通信回線の補完/統合と二重化を挙げた | また、日本テレコムのユーザーにはまだARPU向上の余地があることもアピール |
日本テレコムの買収を完了したことで、個人/法人および音声/データ回線を総合して、ソフトバンクBBの持つ436万回線に日本テレコムの640万回線(法人音声163万/法人データ7万/個人音声364万/個人データ158万回線)を加えて1076万回線を保有する、日本で2番目の固定通信事業者になったと強調。さらに、日本テレコムが持っているナローバンドの顧客(ARPUは約1290円)がYahoo!BB(ARPUは約4100円)に乗り換えることで、収益性の向上が図れる。両者の通信回線を補完することでコスト削減効果(5年間で約500億円)と、重要拠点間における通信回線の二重化による信頼性確保など、合併のメリットを具体的に説明した。
これらを理由に、孫氏は「営業損益の黒字化は、月次単位では年内にも実現可能で、遠くない時期に通期での黒字化も図れるだろう」と楽観的な見通しを述べた。
同社の掲げるブロードバンド事業のビジネスモデル |
最後に証券アナリストからの質問で、「営業損益の単月黒字化は、具体的にいつ頃可能か? 上期中に黒字化できれば、通期での黒字化も今年度に達成できるのではないか?」と聞かれると、「単月の黒字化は下期になる予定。現在はユーザー数を増やすこと、具体的には2005年9月末まで600万回線の獲得を目指すことを表明しているが、これを達成することに重点を置いている。さらに新サービス導入のための先行投資もある。目先の収益をこじんまりと黒字にまとめるのではなく、将来に大きな収益を上げるために今は妥協せずにユーザー数の拡大を狙っていく」と答えた。しかし、その“新サービス”の内容については、「さわりだけ、と言われても、今は何もいえない。競争があるので、コメントできないが、近い将来、次々と新サービスを開始し、それが収益の原動力になるだろう」と自信を見せた。
また、東日本電信電話(株)/西日本電信電話(株)(NTT東西)が最近注力しているIP電話事業について競争の激化による影響を問われると、「各社のIP電話事業への参入は2年前から発表されているが、いまでもウチがトップにある。NTTのIP電話は技術的にできます、というだけであって、実際にIP電話に置き換わってしまえばそれによって利益(売上)は減少するはず。そんな事業に本腰を入れてくるだろうか。ウチよりも安く提供できるとも思えないし、宣伝効果によって好影響があるのではないか?」とかわした。
「新サービスの一環として、光(FTTH)や携帯電話事業も含まれるのではないか?」と突っ込まれると、「タイミングや方法はコメントできないが、準備はしている。特に携帯電話事業は免許制なので、こちらがやりたいからといって“やる”とは言えない。免許をもらえればいつでも参入したいという方針はある」と回答。
さらに、ソフトバンクBBで来年度の新入社員を3000名採用するという話が出た後でのベルシステム24との協業により、何らかの変更があるのか? という人事面での質問には、「3000名の採用は変更路線ではない。新入社員のうち数百名をサポートに回す予定があったが、これはベルシステム24への出向という形になるかもしれない。いずれにしても、採用人数を減らすことは考えていない」と答えた。