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【新連載・秋葉原迷宮探検レポート】ケーブル専門店、真空管専門店を直撃

2002年03月04日 16時05分更新

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■真空管専門店「アムトランス」

出入口は何処に? 実は左のカウンターが可動式でここから出入りするシステムになっているようだ

 先ほどの九州電気脇の入り口から細い通路を入って行くと、中には小さな店舗がズラリと並んでいる。ほとんどの店が究極的に単一カテゴリに特化した品揃えで、一坪ほどの面積をそれぞれ特殊な商品で埋め尽くしている。中でも特に個性的な商品を扱っているのがアムトランス。筆者のような若造は触ったこともない真空管を専門に扱う店だ。店舗スペース前面のショーケースに所狭しと並んでいる真空管には数万円から十数万円の値札がついている。一体この真空管は現代においてどのような用途があるのだろう? 次の突撃取材のターゲットはこのお店に決定だ。



所狭しと積み上げられた真空管。日本製のものもあるが既に生産中止となっている

――これは何に使う真空管なのですか?(我ながら間抜けな質問である)

「これはね、出力管(ショーケースに展示のもの。サイズ大)。で、こっちのが整流管(奥の棚。サイズ小)でこっちが増幅管(向かって左の棚。サイズ中小)。真空管アンプ(オーディオ)に使うんですよ」

――真空管アンプというのは?

「音がいいんだよね。最近のステレオはガサガサっていうか、トゲトゲっていうか。真空管アンプは音がマイルドなの。言ってみれば、癒し系ね、癒し系」

ショーケースに展示された出力管。ステレオ出力のためには2本必要らしい

――出力管というのが高価ですね。

「うん、もちろん。これが命だからね。これが最後の増幅だから。大きいでしょ」

――真空管アンプで聞く音源ソースはなんですか?

「CDでも良いんだけど…やっぱりレコードだね。CDでも良い音なんだけど最近はレコードが流行ってるね。レコードはいい音だよね。癒し系だよね」

――高い真空管は性能が良いのですか?

「性能っていうかね、音がいいんだよねぇ。高いのは高級ブランドなのよ。女性のハンドバックみたいなもんだねぇ。こっちのテレファンケン(ドイツ製)、モラード(イギリス製)、ウエスタンエレクトリック(アメリカ製)とかが高級ブランドだねぇ。最近生産してるのはチェコとかスロバキア、ユーゴスラビア製」

店の横に貼られていた真空管アンプのパンフレット

――アンプには真空管を6個使うんですか?

「いや。回路の作り方で変わるんだけど…。右と左で1個づつ使うからね。普通は3段構成だから6個なんですけどね。うーん、まあ色々、自由だね」

 この店もかなりマニアックそうなお客が次々現れるため、すぐに話は途切れてしまう。回路図とかサンプルの真空管とかを持参したお客さんは非常に長く話し込むため、余裕で10分程待たされる。その間に次のお客が来てしまい、結局1時間ほど待機を余儀なくさせられてしまった。だが、接客中の会話を聞いているとこちらまで興味が湧いてきてしまうから不思議だ。自作真空管アンプの増幅管の予備を買いに来た、年の頃30歳前後と思われる男性は、胃がヨジれそうなほど迷って話が長い。恐るべきことに彼女(らしき人物)と同伴だったのだが、女性のほうは終始無言で一言も発しない(一見してかなり苦痛そうなのはいうまでもない)。

 この店で真空管を睨みつつ棒立ちになるお客さんを観察していると、PCパーツショップでHDDをIBMにするべきか、Seageteにするべきか悩む自分とダブるものがある。想像するに、この真空管アンプも製作するまでの過程自体が楽しみのひとつなのだろう。そして真空管を交換する度、AthlonからAthlon XPにアップグレードしたような期待と喜びが味わえるに違いない。いや、こういったモノが目指すところは音質という実にファジーでアーティスティックなものだ。自分で製作した純アナログ回路の真空管アンプで聞く音楽は、自作PCが生み出す自己陶酔の世界よりも甘美なものであるかも知れない。高品質な真空管の多くは既に生産が終了して10倍ものプレミアがついているという。アナログとデジタル、対極にあるPCと真空管アンプ。だが、そのファンダメンタルな部分は非常に近いと感じるのは筆者だけではないだろう。

アムトランス有限会社 本社
東京都千代田区神田淡路町2丁目10番14号

秋葉原店
東京都千代田区外神田1丁目14番2号 ラジオセンター内



【筆者プロフィール】森本琢司氏。機械設計・加工会社に就職したが、IT成金を夢見てPC関連のベンチャー企業に転職。現在は脱サラして自営。大手メーカーの覆面SEからバカ改造記事執筆まで無節操な営業状態。自称「インチキSE兼コンビニエンスライター」。水冷装置など機械加工を駆使した改造が得意。1970年生まれ神奈川県横浜市在住。

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