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「海底光ケーブル事業が面白くない、というのは間違いだ」――AGCジョン J. レジャー社長兼CEO、AGCJダリル E. グリーン社長インタビュー

2001年07月27日 13時52分更新

文● 編集部 中西祥智

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英領バミューダ諸島に本社を置くアジア・グローバル・クロッシング(Asia Global Crossing:AGC)社(※1)は25日、東アジア各国・地域を結ぶ海底光ファイバーケーブル網“イースト・アジア・クロッシング(EAC)”の、台湾への陸揚げを完了したと発表した。

※1 AGCは、1999年11月に英領バミューダに本社を置くグローバル・クロッシング(Global Crossing:GC)社、米マイクロソフト社、ソフトバンク(株)によって設立された国際通信事業者。

AGCおよびGCの光ケーブルネットワーク
AGCおよびGCの光ケーブルネットワーク。世界の約200の主要都市をカバーする

AGCによると、台湾当局から海底ケーブルの陸揚げや回線リースなどの事業認可を受けたのは、外資系の通信事業者では同社が初めてだという。AGCのジョン J. レジャー(John J. Legere)社長兼CEOは 、EACの台湾陸揚げによって、台湾が世界の約200の都市と、最大80Gbpsの通信速度でシームレスに接続されると説明した。

AGCのジョン J. レジャー社長兼CEOAGCのジョン J. レジャー社長兼CEO

台湾におけるサービスは、AGCと台湾マイクロエレクトロニクス・テクノロジー(Microelectronics Technology:MTI)社の合弁企業、アジア・グローバル・クロッシング・台湾(Asia Global Crossing Taiwan)社が行なう。同社は当面、通信事業者やISP向けに国際専用回線や国際帯域幅の長期回線使用権(IRU)など、データ通信サービスの提供を行なう。今後は、“IPトランジット”サービス(海外へのIPゲートウェイサービス)、ATM、フレームリレーなど、企業向けサービスも提供するという。

EACは、東アジアの10ヵ所を、1万9500kmのリング状の光ファイバーケーブルで接続する。日本から香港、台湾間が完成し、7月中に韓国、12月までにフィリピンおよびシンガポール、2002年3月までにはマレーシアへの接続を完了する予定。回線の容量は80Gbpsで、AGCでは今後、最大2.56Tbpsまで拡張できるとしている。

海底光ケーブルの需要は十分にある

ASCII24編集部では今回の台湾での記者発表会において、AGCのジョン J. レジャー社長兼CEOおよびAGCの日本法人であるアジア・グローバル・クロッシング・ジャパン(AGCJ)(株)のダリル E. グリーン(Darryl E. Green)代表取締役社長に、国際通信事業の現状について、インタビューを行なった。

[ASCII24編集部(以下編集部)] まず、AGCにおける日本の位置付けは?
[レジャー氏] AGCの売り上げの50%以上を占める、ほかとはかなりかけ離れた大きな市場だ。アジアの多国籍企業、外資系企業のほとんどが日本に本社を置いており、AGCはそれらをターゲット・カスタマー、キー・カスタマーとして事業を行なっている。そして、新しいサービスや技術のテストなどは、すべて日本から行なっている。
AGC ジョン J. レジャー社長兼CEO
AGC ジョン J. レジャー社長兼CEO
[グリーン氏] 日本はアジアのネットワークのHubとして機能している。我々は、政府関連の委員会などにも積極的に関与して、法律・規制の改正・緩和を働きかけている。(※2)
※2 グリーン氏は、旧建設省の“IT都市基盤戦略委員会”の委員などを務めた

[編集部] その日本におけるAGCのシェアは?
[レジャー氏] 一概にシェアといっても、何を持って判断するかは難しい。しかし、IPのトラフィックでは、20%程度を占めていると考えている。
[グリーン氏] 日米間のバックボーンを比較すると、たとえば155MbpsのSTM-1を5本で775Mbps持っている事業者、1.2Gbpsの事業者などに比べて、我々は帯域全体の約3割を占めている。
AGCのネットワーク
AGCのネットワーク。全て完成するのは、2002年の3月になる
[編集部] ほかの事業者との差別化は?
[レジャー氏] ほかの事業者と比べて、ネットワークのカバーする範囲が広い、グローバルなIPネットワークを提供できること、“City to City”といった主要都市間の直接接続が可能なこと、そして、IPサービスなど、物理的な通信回線より上位のレイヤーのサービスも提供できることなどが挙げられる。我々のネットワークは“Global”で“Single”なネットワークであり、1社で広い地域をカバーすることによるパフォーマンスの高いサービスを、他に先駆けて行なうことが他社よりも優位な点だ。
[グリーン氏] 我々が日本市場に本格的に参入したのは、昨年のことだ。後発であるのに日本のISPなどが我々の回線を利用した理由は、AGCという企業は設立したばかりでも、そこで働くメンバーは通信業界で長く仕事をしているという信頼感があること、実際に他社のネットワークと通信速度を比較してみてと速さが実証されたことなどがある。AGCのネットワークは1つのAS(※3)ナンバーで世界中にアクセスできるため、遅延やパケットロスなどが少ない。
また、海底ケーブル敷設の技術一般について、我々は大きなノウハウを持っており、それだけでも十分な強みになる。
※3 規模の大きなTCP/IPネットワークは、ルータを論理的にグループ化したAS(Autonomous System)が、複数接続された形になる。しかし、AGCのネットワークは、全体でひとつのASとして機能している。

AGCJ ダリル E. グリーン代表取締役社長
AGCJ ダリル E. グリーン代表取締役社長
[編集部] だが、1社で全てを行なうというそれらの設備は、現状では過剰な投資では?
[レジャー氏] 決して過剰投資ではない。需要は計画どおりに膨らんでいる。今後約半年でEACの全てのネットワークが完成するが、実際に完成すれば他の国際通信事業者からも含めて、どれだけの需要があると思うか? エンドユーザーから大企業などのビッグプレイヤー、テレコムキャリアーまで、相当の需要が予測される。
[編集部] 旧来の通信事業者は通話料、回線使用量だけでは収益を上げられず、上位のサービスを行なおうとしているが、AGCはどうか?
[レジャー氏] 我々の収益の柱は、あくまでもレイヤー1の物理層だ。他社とは違って我々はコスト低減に成功している。たとえばレイヤー3、IPサービスで競合する他の通信事業社が受注しても、その事業者が回線を我々に発注するということもある。
レイヤー1が収益の柱に
レイヤー1での回線提供事業が、収益の柱であり続ける
[編集部] EACが完成すれば、当面は新規に海底ケーブルを敷設する予定はないのか?
[レジャー氏] 需要があまりなく、かつすでに他社がケーブルを敷設しているところでは収益を上げられない。そういった地域では、他社と帯域・波長を交換するなどして、サービスを提供する。その場合でも、我々のインターフェースを導入することで、シームレスなネットワークとして機能させる。
[グリーン氏] それに加えて、技術の流れを見極めることも重要だ。たとえば、光ファイバー1本で10Gbpsの帯域幅の時期にケーブルを敷設して、すぐに40Gbpsの時代になれば、コスト面での競争ができない。
[編集部] だが、それは1社でグローバルなネットワークを、という考えと矛盾しないか
[レジャー氏] 大切なのは、迅速にサービスを提供すること、先行することだ。
[編集部] もし、今後新規に海底ケーブルを敷設するとすれば、それはどの国か?
[レジャー氏] 今後は、どこに広げるか、ということよりもどんなサービスをカスタマーに提供するかを重視していく。だが、あえて敷設するとすれば、インドかもしれない。

AGCは6月25日に、ニューヨーク証券取引所に上場した。AGCによると、会社設立からニューヨーク証券取引所上場までの期間は、同社がおそらく最短記録だという。27日現在の株価は5ドル30セント(約652円)。

一見すると地味な印象の強い海底光ケーブル事業だが、インタビューで両氏とも、「海底光ケーブル事業が面白くないなどというのは、間違っている」ことを強調した。AGCおよびGCは、会社設立後わずか4年で、世界の主要都市をつなぐ光ファイバーネットワークを構築しようとしている。

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