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【Seybold Seminars Tokyo/Publishing 99 Vol.4】アドビシステムズがプロフェッショナル用のパブリッシングソフト『Adobe InDesign』を国内初公開

1999年11月16日 00時00分更新

文● 千葉英寿

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11日、12日に開催されたデジタルパブリッシングに特化した専門セミナー“Seybold Seminars Tokyo/Publishing '99”の1つとして、スペシャルセッション“アドビが提唱するInDesignを核としたPublishing‘IN’NOVATION”が行なわれた。

10日に行なわれたアドビシステムズの取締役会長兼社長、チャールズ・M・ゲシキ氏の基調講演では、“Adobe ePaper Solution”としてビジネス向けのセッションとなった。しかし、ここでは一転、Seyboldらしいデザインプロフェッショナル向けセッションとなった。

『Adobe InDesign』を国内で初披露

このセッションでは、アドビがクォークのレイアウトソフト『Quark XPress』からデファクトスタンダードの座を奪い返すため、リーサルウェポンであるプロフェッショナル用のパブリッシングソフト『Adobe InDesign』を国内で初披露した。

すでに今夏、米国で発売が開始されたAdobe InDesign。順調に出荷、出だしも好調という情報が聞かれている。米国での発売から3ヵ月(90日)を、日本国内で発売する目安としてきた。まだ具体的な国内発売のスケジュールがアナウンスされていなかっただけに、デザイナーや印刷関係者の注目が集まっていた。

講演は、米国本社でプロフェッショナル用のパブリッシングソリューションズチームを率いるプロダクトマーケティングディレクター、ピーター・ケロッグ・スミス氏による戦略の解説や、プロダクトマネージャーのデビッド・エバンス氏とプリシラ・ノーブル氏によるAdobe InDesignのデモンストレーション、アドビシステムズ(株)の宮本氏によるAdobe InDesign日本語版についての解説、という3部構成で行なわれた。

デジタルワークフローを確立するアドビの戦略

ピーター・ケロッグ・スミス氏は、はじめに日本においてプロフェッショナル用パブリッシングが置かれた状況について語った。

ピーター・ケロッグ・スミス氏はアドビのプロフェッショナル用パブリッシングのキーマン
ピーター・ケロッグ・スミス氏はアドビのプロフェッショナル用パブリッシングのキーマン



ピーター氏によれば、日本の出版におけるデジタル化は未整備で、デジタルパブリッシングのワークフローが整備されていないという。その要因として、実際にはデジタル入稿が主流ではないこと、フォント埋め込み機能の不足、日本語環境にそぐわない欧米型レイアウトソフトの問題、といった問題点を指摘。また、DTPが完全に普及していない理由には、まだまだ組版専用システムが主流であること、経済状況もあって出版社の売上が頭打ちである点などを挙げた。

このような状況下で、アドビの戦略として以下のポイントを説明した。
 
まず、PDFワークフローにおいて『Adobe Acrobat 4.0』を使用すれば、すべてのフォント、イラストレーション、写真といった構成要素を、レイアウトを維持しながら単一のファイルとして持て、デジタルワークフローが確立する。また、安価なインクジェットプリンターでプルーフを行なえる印刷校正ツール『Adobe PressReady』(米国出荷済)や、クロスプラットフォーム環境で使用できる安価な次世代フォント『Open Typeフォント』も紹介した。

『Adobe InDesign』のメリット

引き続き、Adobe InDesignのデモンストレーションが行なわれた。まず、アプリケーション本体の特徴を説明。コアのアプリケーション本体は1.7MBと軽く、“ワープロなどと比較しても1番小さいエンジン”であるという。その理由として「オブジェクト指向でモジュール化して開発され、各機能がプラグインとなっているから」と語った。

例えば、その機能の1つとしてグラデーション機能がある。このプラグインを外すと、アプリケーションは起動するが、グラデーション機能そのものは働かなくなる。これをうまく活用すれば、目的を絞ったカスタマイズ作業環境を作り出せる。

また、具体的なデモを交えて、アドビ各製品との連携が強固であることを示した。

アドビの次世代アプリ。Adobe InDesignを中心としたアドビの次世代アプリケーションの相関図
アドビの次世代アプリ。Adobe InDesignを中心としたアドビの次世代アプリケーションの相関図


【お詫びと訂正】 上記の図の中で、右済みにある“ビューワ”は、“ビューロ(サービスビューロ)”の間違いです。お詫びして訂正いたします。

まず、ユーザーインターフェースがアドビ共通のものとなっている点を挙げた。さらに、“もっといいメリット”として、ネイティブなファイルフォーマットをサポートしているので、他のアドビ製品との連動が図れることを示した。

例えば、貼り付けられている画像からコンテクストメニューによって『Adobe Photoshop』を起動し、画像に変更を加える。Adobe InDesignに戻って、“リンクパネル”を使って変更をクリックすると処理を反映し、変更した画像に入れ替わるようになっている。この際、ファイルタイプを再保存する必要はない。

『Quark XPress』と対比した説明も行なわれた。Quark XPressは800パーセントまで拡大ができるが、Adobe InDesignでは4000パーセントまで拡大できる。拡大してもラスタライズして見せるので、画像はあくまで滑らかだ。

また、5パーセントまで縮小でき、5m×5mまでのページサイズが扱えるので、大変役に立つという。この他、Quark XPressや『Adobe PageMaker』のファイルを開ける点、Quark XPressのキーボードショートカットを取り入れている点などのメリットも挙げた。

さらに、前後の文字詰め状況を見ながら自動的にカーニングを行なえる“オプティカルカーニング機能”などを説明した。この機能は大変優れてはいるものだったが、環境が英語のためか、来場者の反応はクールだった。

生真面目にデモを進行したデビッド・エバン氏と、日本人かと聞き間違えるほどの流暢な日本語で説明を行なったプリシラ・ノーブル氏
生真面目にデモを進行したデビッド・エバン氏と、日本人かと聞き間違えるほどの流暢な日本語で説明を行なったプリシラ・ノーブル氏



『Adobe InDesign日本語版』は、日本語文字組版システムで全角ベースの組版エンジンを使用

続いて、『Adobe InDesign日本語版』について説明があった。「日本語版の開発にあたり、2年前から日本のプロフェッショナルユーザーを調査して、1から日本語のための機能を開発した」と述べた。

基本的な部分は英語版と変わらないが、日本語に関しては注目すべき点があった。日本語文字組版システムでは、英語版では標準的なベースラインを採用しない全角ベースの組版エンジンを使用している。また、カスタマイズ可能な文字組、Open Typeの異体字文字切り替えシステム、ルビや禁則処理といった基本的な文字組版のテキスト処理が行なえると説明した。

発売時期などについては未定だが、実際に開発進行中であり、テストケースとしてマガジンハウス社の新雑誌『MUTTS(マッツ)』を例にした紹介があった。

Adobe InDesign日本語版。きちんと縦組みがなされている。紙面はマガジンハウス社の『MUTTS』
Adobe InDesign日本語版。きちんと縦組みがなされている。紙面はマガジンハウス社の『MUTTS』



セッション会場には、わざわざこのセッションのためだけに、幕張まで足を運んだユーザーが数多く見られた。都内から来場したフリーランスのデザイナーは「デザイナーってこう見えても、けっこう忙しいんです。その仕事の合間を縫って見に来たんですが、日本語版の発売が未定なのにはがっかりしました。せめて時期でも言ってくれれば」と残念そうに語った。
 
日本語に合ったパブリッシング環境に注力するのは大事だが、あまり慎重すぎるとユーザーの関心を失ってしまう危険もありそうだ。

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