技術を知らなければ、デザインはできない
ウェブの話が出たが、インターネット上のコンテンツではすでにデザイナーとエンジニアの壁が取り払われつつある。仮にデザイナーでも、プログラミングやツールへの理解なしに仕事はできないし、プログラマーも情報がどう受け取られ、どう伝わるかを考える必要がある。素人目で見れば、もともとは別物だった技術とデザインの分野が歩み寄り、新しい領域が誕生しているようにも見える。
しかし永原教授の認識は、そんな質問者とは若干異なるようだ。
「技術への理解がなければデザインできないという状況は、いまも昔も変わりません。私はグラフィックデザイナーですが、印刷はしません。しかし、印刷の技術を学び、その特性は知っておく必要がある。昔から技術とデザインの関係は一体で、技術のないところにデザインは成立しないとも言えます」
永原教授が担当する講座に、専門課程の「メディアとデザイン」ゼミ、基礎課程の「デジタルタイポグラフィー」、講義科目の「メディアデザイン論」がある。それぞれ、ゼミ、演習、座学と形態が違っている。
演習とは対面式で授業を行なう実技科目のことで、講義と実習が一体になっていると考えればよい。情報デザインのような新しい分野では、この演習形式が効果的だという。
タイポグラフィーの基礎を学ぶ「デジタルタイポグラフィー」の場合、講義にあたる部分では「文字は、文字と文字じゃない部分(カウンタースペース)でできている……」といった基本概念を理解させ、実習では「文字を作り、そして使う」。重要なのは文字とは何かを発見することだ。
「デザインは表象であって、内容ではありません。しかし、タイポグラフィーは文字を読みやすくするためだけにあるのではない。見えている文字そのものにも伝える力があることを知ってほしい」
見えている文字そのもの──という表現にピンとこない質問者に永原教授は説明する。
「例えば、ここにハガキがあるとします。金が使われていて、楷書で書かれている。結婚式なら、これはオフィシャルな披露宴の案内状だと分かる。逆にカジュアルなハガキにゴシック体なら、二次会だろうなと想像する。文字を読む以前にメッセージが視覚的に発せられているんです。
表象をまとうといえば「ファッション」ですが、着ている服で敵かどうかはともかく、仲間かどうかは分かるでしょう。本の装丁でも、真っ黒の本と真っ白な本では印象が違うのではないでしょうか。表象が内容に影響を与える。そういうメタな情報に無自覚になってはいけない。もちろん反対の考えをする人もいます。文字は透明であったほうがいい。読んでいるうちに透明になる。確かにそうだけど、最初から内容のしもべになってしまってはいけないと思います」
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