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デザインツールで変わる大学教育 第2回

伝え方を発明する授業──多摩美大永原教授に聞く

2009年03月17日 16時00分更新

文● チバヒデトシ

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技術を知らなければ、デザインはできない


 ウェブの話が出たが、インターネット上のコンテンツではすでにデザイナーとエンジニアの壁が取り払われつつある。仮にデザイナーでも、プログラミングやツールへの理解なしに仕事はできないし、プログラマーも情報がどう受け取られ、どう伝わるかを考える必要がある。素人目で見れば、もともとは別物だった技術とデザインの分野が歩み寄り、新しい領域が誕生しているようにも見える。

コンピュータやネットワークがどう動いているのかという、理論の学習なども情報デザインの範疇となる。永原教授の講義でも、かつてはコンピューターを分解して学んだりした。最近では、ハードはあまりやっていないが、ソフトウェアに関しては分解して、それぞれの要素がどう関係してくるかを調べたり、スクリプトの演習、プログラマーに発注するための用件定義などにも触れる授業がある

 しかし永原教授の認識は、そんな質問者とは若干異なるようだ。


 「技術への理解がなければデザインできないという状況は、いまも昔も変わりません。私はグラフィックデザイナーですが、印刷はしません。しかし、印刷の技術を学び、その特性は知っておく必要がある。昔から技術とデザインの関係は一体で、技術のないところにデザインは成立しないとも言えます」


永原教授が担当する講座に、専門課程の「メディアとデザイン」ゼミ、基礎課程の「デジタルタイポグラフィー」、講義科目の「メディアデザイン論」がある。それぞれ、ゼミ、演習、座学と形態が違っている。

 演習とは対面式で授業を行なう実技科目のことで、講義と実習が一体になっていると考えればよい。情報デザインのような新しい分野では、この演習形式が効果的だという。

タイポグラフィーの基礎を学ぶ「デジタルタイポグラフィー」の場合、講義にあたる部分では「文字は、文字と文字じゃない部分(カウンタースペース)でできている……」といった基本概念を理解させ、実習では「文字を作り、そして使う」。重要なのは文字とは何かを発見することだ。


 「デザインは表象であって、内容ではありません。しかし、タイポグラフィーは文字を読みやすくするためだけにあるのではない。見えている文字そのものにも伝える力があることを知ってほしい」


 見えている文字そのもの──という表現にピンとこない質問者に永原教授は説明する。


 「例えば、ここにハガキがあるとします。金が使われていて、楷書で書かれている。結婚式なら、これはオフィシャルな披露宴の案内状だと分かる。逆にカジュアルなハガキにゴシック体なら、二次会だろうなと想像する。文字を読む以前にメッセージが視覚的に発せられているんです。

 表象をまとうといえば「ファッション」ですが、着ている服で敵かどうかはともかく、仲間かどうかは分かるでしょう。本の装丁でも、真っ黒の本と真っ白な本では印象が違うのではないでしょうか。表象が内容に影響を与える。そういうメタな情報に無自覚になってはいけない。もちろん反対の考えをする人もいます。文字は透明であったほうがいい。読んでいるうちに透明になる。確かにそうだけど、最初から内容のしもべになってしまってはいけないと思います」

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