パナソニック株式会社 代表取締役社長 大坪文雄氏独占インタビュー
パナソニック――大坪社長が語る“今”とこれから
2009年03月04日 12時00分更新
愚公、山を移す
パナソニックは、2009年1月、2008年度の業績見通しを下方修正し、3800億円の最終赤字の予想とした。上期の増収増益からは一転した厳しい内容だ。GP3計画で掲げたROE10%の目標とも大きく離れることになる。
――2008年度業績見通しは、3800億円の最終赤字へと下方修正し、新生パナソニックの船出としては、厳しいものとなりました。GP3計画、そしてポストGP3計画の行方にも大きな影響を及ぼしそうですが。
大坪 2009年1月9日に、2009年度の経営方針を発表しました。現在の状況は単に「景気が悪い」ということでなく、世界的な不況、需要縮小と、新興国市場の拡大や低価格品へのシフトとして市場の構造変化が同時進行しています。簡単に景気が回復するということは望めませんし、たとえ時間が経って市況が上向いたとしても、市場の構造変化の流れは変わらない。100年に一度といわれる世界的な経済危機のなか、業績は一変し、GP3計画の数値目標をすべて達成することは極めて厳しくなりましたが、GP3計画で目指す姿、方向性は変えるつもりはありません。このような認識に立って、徹底的な構造改革と体質強化、そして成長への仕込みを行なっていきます。
一方、2010年度以降のポストGP3計画では、これまで国内市場に留めていた携帯電話事業を海外で再度挑戦すること、海外の白物家電事業を成長の柱にすることなどを盛り込みます。
しかし、GP3計画で掲げたグローバルエクセレンスの挑戦権を得たかどうかは、2009年度が終了する1年後でないと分からない。ここで挑戦権を得られることがわかれば、ポストGP3では、次にこれをやる、あれをやるということを明確に打ち出せるようになります。
私の座右の銘は、「逆境は己を磨く、天与の機会」。社名を変更してから、経済環境は猛烈に悪い。これはまさに、「逆境」であり、「己を磨く、天与の機会」です。社員も同じような思いで、立ち向かってくれていると思っています。歯を食いしばって、なんとしてでも、この逆境を乗り越えていく。創業者の言葉に、「紙一重の努力の差」というものがあります。どこも同じように努力しているが、少し時間を経過すると結果が大きく違ってくる。それは、ほんのちょっとした差の積み重ねが、結果となるからです。ほんのちょっとした差を意識してコツコツとやる人間が、成果をあげることができる。パナソニックのグローバルの社員全員が、紙一重の努力を積み重ねることで、いまの逆境を乗り切れると考えています。
また、私は、オーディオ事業部長時代から、「愚公、山を移す」という言葉を使ってきました。中国の列子の言葉です。これは、愚公という老人が、家の目の前にある山が生活の邪魔になるとして、家族と一緒にスコップで土を堀り、それを渤海まで捨てにいくことを繰り返した。これを見た賢者が、「山が動くはずがない、無駄なことはやめなさい」といった。それに対して愚公は、「山の土には限りがある。私の子供や孫、子孫が続ければ、いつかは動く」と答えた。信念を持って努力を続ければ、何事も成し遂げられるという意味です。ただ、私が、この言葉をよく使っているのは、そのあとの話があるからです。よく読むと、愚公の努力を知った天使が、天の力で山をどけたというのです。私は、コツコツとして努力をしていれば、必ず誰かが見ていてくれる。そういうマインドをもって、取り組んでいくことが必要だと感じています。マクロの経済動向に左右されるのではなく、顧客視点でコツコツと努力を続ける。自分たちが成し遂げようとすることを、評価してくれる人が必ずいるはずです。その点で、この3つの言葉には共通点があるのではないでしょうか。私は、逆境をチャンスとし、全社員が一丸となって成長戦略を推進していくつもりです。2008年10月に社名を変更したことは、厳しい経済環境のなかで、グループ全社員が一丸になるという意味で、絶好の機会だったといえるのではないでしょうか。
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