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世界企業パナソニック 90年目の決断 最終回

パナソニック株式会社 代表取締役社長 大坪文雄氏独占インタビュー

パナソニック――大坪社長が語る“今”とこれから

2009年03月04日 12時00分更新

文● 大河原克行

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中期経営計画「GP3計画」

パナソニックは、2009年度を最終年度とする中期経営計画「GP3計画」に取り組んでいる。目標は、売上高10兆円、ROE(株主資本比率)10%以上、CO 2 排出総量で30万トンの削減。そして、グローバルエクセレンスへの挑戦権の獲得を掲げる。

――2009年のスローガンを、2007年、2008年に引き続き「打って出る」としましたね。これにはどんな意味を込めているのですか。

大坪氏

大坪  GP3計画の1年目(2007年度)には、BRICS+V(ベトナム)地域での大幅な成長をはじめとする海外事業の成長率向上、ABCDカルテット(A=アプライアンスソリューション、B=ブラックボックスデバイス、C=カーエレクトロニクス、D=デジタルAVネットワークス)と呼ぶ4つの戦略事業を伸ばすこと、モノづくり立社のコンセプトによって全社活動を推進すること、そして、グローバルエクセレンスと呼ばれるような会社になるための挑戦権を獲得しよう、という方針を掲げたわけです。その点では、まさに、 「打って出る」 という言葉が最適だった。ただ、これは、1年だけで簡単にできるものではない。もっと打って出なくてはならない。まして、社名変更ということであれば、打って出るという言葉がやはり一番相応しいのではないか。ですから、2年目もこのスローガンで行こうという決めたわけです。そして、2009年度は、大変な難局にあるが、こういう時こそ、大きな成長を遂げるための仕組みの時期、経営の足腰を鍛える好機と捉え、道を切り開く姿勢が必要です。グループ全員がこの想いを共有し、結束して挑んでいくことから、経営スローガンは、今年も「打って出る」としたわけです。

――GP3計画の前半が松下電器、後半がパナソニックの社名で遂行することになりますね。最終年度投入を目前に控え、これまでの進捗をどう自己評価していますか。

大坪  パナソニックの経営を語るには、2001年度に出した未曾有の赤字の経験を抜きには語れません。中村邦夫社長(現会長)時代に、「破壊と創造」を掲げ、思い切った体質改善をやり、2006年度には、営業利益率5%という生き残りに向けた最低限のレベルにまで到達できた。これを受けて、2007年度からのGP3計画では、成長戦略を打ち出し、2008年度前半までは、全社員の努力の結果、全員で満足しあえるところにまで到達したと判断しています。ただ、苦しい経験をした2000年度以降の「破壊と創造」のイナーシャ(慣性)がまだ強く残っており、それによって計画を達成できた部分が多分にあった。

 経営環境は大変厳しくなっています。グローバルカンパニーであることの恐ろしさを、実感させられることも起こっている。この2008年度下期から2009年度にかけては、GP3計画で掲げた「成長」という言葉に相応しい経営ができるのか、パナソニックの本当の実力はどうなのかといったことが試される時期に入ってきたといえます。もはや、過去のイナーシャがなくなり、次の成長のために、改めて必要な構造改革をしなくてはならないともいえる。これまでの経験を生かしながら、体質を「リセット」し、底辺に流れる意識や考え方を変え、事業構造をもっと改革する、体質を強くする姿勢を持たなければ、2009年度の経営は、非常に難しいものになると考えています。ただ、私は、社内にはマクロ経済の動きだけに影響されるな、ということを強く言っています。

――それはどういう意味ですか。

大坪  世界経済のマクロなトレンドを冷静沈着に分析することは必要です。だが、パナソニックは、モノづくりの「メーカー」であり、まず消費者のことを考えなくてはならない。考えてみれば、世界経済を俯瞰すると、必ずどこかで問題が起きている。それを積み重ねると、なにもできないということになりかねない。もし、私が開発現場にいて、上司がマクロ経済の話ばかりをしていたら、「どこもかしこも状況が悪いのでは、結局売れないじゃないか」という結論にしかならない。やる気がなくなりますよ(笑)。

 そうではなく、こんな時こそが、設計者や開発者の知恵の出しどころなんだと。グループ社員全員が知恵を出して、これを乗り越えていかなくてはならない。例えば、北米での金融危機をきっかけにして、マクロ経済への影響、個人消費の抑制につながっている。しかし、北米の消費者は、薄型テレビに強い関心を持っていることには変わりがない。北米の消費者のニーズはなにか、そのニーズに合致した商品とはどんなものか。それを追求することが、我々の課題です。マクロ経済の潮流とは別のところで、我々の商品に期待してくれている人たちがいます。こうした人たちに、消費者目線で開発した商品をきっちりとお届けする。そこに力を注いでいきたい。消費者のニーズに目を向けることこそが、マクロ経済の影響によるダメージを小さくすることにもつながる。社員には、伸びているところ、可能性のあるところを見いだし、貪欲に攻めてほしい。これまで、パナソニックには、危機を脱してきた成功体験がある。成功体験が慢心になり、「他社よりもダメージが少ない」などと思ったら、その時点で負けです。傲慢にならない、謙虚でなくてはならない。これは、私自身に言い聞かせることはもちろんですが、社内にも意識して発信しています。

次ページ「衆知を集めた全員経営」に続く

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