視野率100%を実現するための取り組み
── 今回の機種ではファインダーに特に力を入れたと聞いています。視野率は100%で、のぞいてみると広くて明るい。このあたりのこだわりについて聞かせてください。
帯金 開発当初からミノルタのα-9を超えるファインダーにしようというコンセプトでした。視野率・倍率・明るさ・像性能、すべてにおいて、α-9を超えられたと考えています。
── ファインダー部分が、三角形に尖っているのも、デザイン上の特徴ですよね。銀塩時代のペンタプリズムのイメージによく合っていて、実機を見た瞬間に、これが新しいαのIDなんだなと感じました。
上田 光学ファインダーがすごくいいんだという中身を、デザインでも印象深く伝えようとしています。そんなデザイナーの思いが表れた結果ですね。
── 技術面での取り組みに関しても教えてください。
帯金 まず視野率100%を実現するための、製造工程でも細かな調整が必要です。製造事業所とも早期にタイアップして、どうやって実現していくかディスカッションしてきました。
ファインダーで見た絵と撮影した絵を一致させるための調整方法も検討を重ねました。マウント側から高解像度のカメラでモニタリングして、ファインダーの視野枠とミラーアップした状態の撮像素子との相対位置が一致するか確認するのです。一方向から同じモニターで見るので、誤差が少なくできるほか、画像処理でズレの量も正確に把握できます。
── ミラーを下げた状態でファインダーから写り込んだ像と、ミラーアップした状態の撮像素子を、真正面から比較して、精度を取るわけですね。
岡崎 視野率に関して言うと、フィルムカメラの時代は撮像面の画枠が固定なので、ここに視野枠を合わせこめば良かったのですが、α900では撮像素子に合わせこむことになるので、これをピッタリと合わせることに苦労しましたね。
トップクラスのファインダー性能の裏側
── ファインダーの見え方についても、もう少し詳しく教えてください。
帯金 視野の広さを実現するための技術について説明します。今回の特徴のひとつに、光学的に非常にパワーの強いコンデンサーレンズの採用があります。一般的に、ペンタプリズムが大きいと倍率が下がり、画面が小さくなります。肉をできるだけそぎ落として、小さくしなくてはいけません。
今回は手ぶれ補正の機構との兼ね合いで、焦点板とペンタプリズムの間に距離を取らなければなりませんでした。通常はそうすると倍率が下がってしまうのですが、これを逆手にとって、隙間にこのハイパワーのコンデンサーレンズを配置し、像の倍率を高めています。
倍率は0.74倍で、他社高級機と比較しても遜色ない大きさになっていると思います。対角の広さを示すFOV(Field of View)でも、明るさでも引けをとらない性能です。
── コンデンサーレンズは一般的に使用されるものなのですか?
帯金 α700には入っていません。使用するかどうかは、設計の考え方しだいです。
岡崎 αの歴史の中でコンデンサーレンズを採用しているのはα-9とα900だけなんです。ソニーブランドになってからは初の機種ですね。α-9で好評だった考え方をより良くして搭載した形です。
帯金 また像性能に関しては、コンデンサーレンズで歪曲収差の補正、接眼光学系で球面収差とコマ収差などの補正、といった感じで役割を分けています。コンデンサーレンズを持たないα700では、接眼レンズ部だけで、すべての収差を補正するのですが、もっとも目立つ歪曲収差を中心に補正していくと、像の鮮鋭度に関わるコマ収差、球面収差の補正がしにくくなります。α900の接眼レンズは、像の鮮鋭度を高める補正だけを考えればいいので、そのぶんだけ有利になるわけです。
歪曲収差はα-9と比較して1/6以下に低減できています。実質的にはまったくゆがみを感じないレベルと思います。コマ収差に関しても対角で1/2以下に低減しており、画面の隅々までにじみのないシャープな画像です。
上田 α700の時点で、他社の高級機の多くより明るいファインダーでしたが、α900では(現行で最高クラスの)プロフェッショナル機より、0.2~0.4EV向上させることができました。
── 製造上のご苦労は。
帯金 先ほどの100%視野率の調整に加えて、焦点板を拡大して見せる際にゴミが写り込まないよう、苦労しました。ファインダー内にゴミが入り込まないよう密閉構造を採る必要があり、ゴミの進入にも細心の注意を図りながら各部の部品をひとつひとつ丁寧に組み立てています。
── このあたりもαシリーズのノウハウが生きているということですね。
上田 デジタル一眼レフでは、デジタル部分の進化が注目されがちです。光学的な部分は、長年培われてきたこともあり、よほど大きな変化がなければアピールしにくい部分です。今回は自信を持って紹介できるものができたと感じています。