コスト至上主義から、ユーザー体験向上へ
設計思想に起因する問題も根深いが、もっと憂うべきは極端に「直材費」の上昇を嫌う文化にある。
直材費とは、ソフト資産などを除き、メーカーが製品1台を組み上げるのに支払う必要がある部品代のこと。LEDを1つ追加すれば数円、無線LANを追加すれば数百円、といった具合だ。自社だけが無線リモコンを装備すると、競合他社と比べて2000~3000円の差額ができてしまう。
そうなると、リモコン操作が快適だというだけで差額を払ってくれるユーザーは多くないからその判断は許可できない、となってしまうわけだ。
例えばテレビなら、薄さや画質といったスペック競争の焦点以外の部分は、驚くほど進歩が遅い。その原因がここにある。
では、複雑化の一途をたどるデジタル家電のインターフェイスはどうすればよくなるのだろうか。
ひとつは操作性向上にきちんとコスト(直材費やソフト開発費)をかける体質を作ること。もうひとつは、既存資産を無理に流用したりしようとせず、常にゼロベースでインターフェイスを考えること。そして機器全体の「ユーザー体験」を統括指揮する権力ある役職の新設だ。
もっとも、その職を全うできる社員がいなければ絵に描いた餅なので、人材育成から始める必要があるのだが。
岩佐琢磨

Cerevo 代表取締役。松下電器を退職して、2007年末にネット家電の開発を行なうベンチャー企業「Cerevo」を起業。人気ブログ「キャズムを超えろ!」を運営。家電業界やウェブサービス業界の企画/マーケティング関連のエントリーはネットでも高い支持を得ている。
