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経済予備校 第2回

M&A~もう他人事ではありません~

合併や買収は、弱い社員の敵なのか!?

2008年07月11日 04時00分更新

文● 金山隆一、稲垣章(大空出版)

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コンサルタントインタビュー「企業に欠かせない経営戦略ツールとなったM&A」

日本総合研究所 山田 英司氏

山田 英司氏
日本総合研究所
総合研究部門 戦略マネジメントグループ ディレクター

日本総合研究所

 企業をM&Aに駆り立てる要因はさまざまだが、一言で言えば企業価値を高めるために行なわれている。日本の場合、人口が減少し、国内市場の縮小が目に見える一方で、国際競争はどんどん激化している。つまり、何もしていなければ収益は減り、競争に負けてしまう。それがM&Aの最大の動機と言えるだろう。

 日本はこれまで護送船団行政(弱小企業に足並みをそろえ、過度な競争を抑える)の下、業界横並びの体質があり、実質的に自由な競争が行なわれてこなかった業界が多かった。金融や建設業界などがその最たる例だが、バブル崩壊後の過剰な債務・設備・人員をリストラするため、企業存続をかけた合併や事業売却など後ろ向きのM&Aが90年代に多く行なわれた。2000年以降は、規制緩和による自由競争や国際競争の激化を勝ち抜くためのM&Aが増加しており、日本企業が絡むM&Aの件数はこの10年で5倍にも増加している。

ビール業界、たばこ業界のM&A活発!

 M&Aに詳しい日本総研・戦略マネジメントグループの山田英司氏によれば、「M&Aには、 『時間を買う』 『市場を買う』 『ブランドを買う』 『規模を買う』 といった動機がある」という。例えば製薬会社の場合、自ら開発した化合物が医薬品として認可され、商品化するまでには一般的に相当な期間、場合によっては10年以上かかる。それに対して、商品化が間近な化合物を多く持っている製薬会社を買収すれば、短期間で多くの薬品の商品化に漕ぎ着けることができる。これが「時間を買うM&A」だ。

 一方、別の見方をすると製薬業界は巨額の研究開発投資が必要で、企業規模が小さく、投資規模が小さいことが、将来の競争力の低下につながりやすい。そこで合併により規模の拡大を求めていく、というわけだ。

 製薬業界に限らず、技術革新が早く、巨額の開発投資が必要な業界では再編が起こりやすい。近年、電機業界、特に半導体の世界で再編が起きているのも研究開発の規模やスピードを求めてのものだ。また、国内の消費量が減っているビール業界が海外のビールや飲料メーカーなどを積極的に買収している。成長が見込める海外の「市場を買う」、あるいは、地域に根付いた「ブランドを買う」M&Aと言えるだろう。

 そして、今増えているのが「ストラテジック・バイヤー」、つまり事業法人が自らの事業を強化、拡大、成長させていくためのM&Aだ。日本では、日本たばこ産業(株)(JT)の英たばこ大手ガラハーの買収、日本板硝子(株)による英ガラス大手ピルキントンの買収、東芝による米原子力発電大手ウエスチングハウスの買収など、いわゆる「内→外」型の大型買収が増加傾向にある。

(次ページ、「M&Aが目立つIT業界の現状は」へ続く)

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